「カビ臭いのに、どこにも見当たらない」
「同じ場所に何度も出る。掃除しても半年で戻る」
「入居者から申告があったが、本当にカビなのか判断できない」
こうしたご相談に共通するのは、目に見えているものだけでは判断材料が足りないという状況です。カビ菌検査は、その足りない部分を数字と菌種で埋めるための手段です。
ただし、検査には得意なことと不得意なことがあります。「検査すれば全部わかる」と期待して依頼すると、結果を受け取ったときに戸惑うことになります。この記事では、検査で何が分かり、何が分からないのかを整理します。
1. 法令の空気環境測定に、カビは入っていない
まず押さえておきたい事実があります。
厚生労働省の建築物環境衛生管理基準(いわゆるビル管法の基準)で、特定建築物に義務づけられている空気環境の測定項目は、浮遊粉じんの量、一酸化炭素の含有率、二酸化炭素の含有率、温度、相対湿度、気流、ホルムアルデヒドの量です。
この中にカビ(真菌)は含まれていません。
つまり、法令に基づく定期測定を適切に実施していても、カビの状況は測られていないということです。「毎年きちんと測定しているのに、なぜカビが出るのか」という疑問の答えは、ここにあります。測っていないものは、把握できません。
カビの状況を知りたければ、自主的に検査を行うほかありません。これがカビ菌検査の位置づけです。
2. 基準になるのは湿度。ただし、用途で数値が違う
法令が直接カビを測らない代わりに、温度と湿度の基準が定められています。ここで注意したいのは、建物の用途によって基準の幅が異なるという点です。
| 基準 | 温度 | 相対湿度 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 建築物環境衛生管理基準(特定建築物) | 18℃以上28℃以下 | 40%以上70%以下 | 厚生労働省 |
| 学校環境衛生基準(教室等) | 18℃以上28℃以下が望ましい | 30%以上80%以下が望ましい | 文部科学省 |
なお、建築物環境衛生管理基準の温度の低温側は、令和4年4月に17℃から18℃へ改正されています。学校環境衛生基準についても、令和8年2月27日付で一部改正が通知され、令和8年4月1日から施行されています。基準は更新されるものなので、施設の管理担当者は最新の告示を確認してください。
湿度の上限を見ると、特定建築物は70%、学校は80%です。学校の基準を満たしていても、ビル管法の基準では上限を超えているという状態があり得ます。自分の施設にどの基準が適用されるのかを確認したうえで、数値を見る必要があります。
そして重要なのは、これらはいずれも人にとっての快適性・健康を主眼にした基準であり、カビが生えるかどうかの分岐点として定められたものではないということです。基準内に収まっていても、局所的に結露している場所があれば、そこにはカビが生えます。
3. 検査には大きく2種類ある
カビ菌検査と呼ばれるものは、おおむね次の2つに分かれます。
(1)空気中の菌を調べる(浮遊菌・落下菌)
空気中を漂うカビの胞子を捕集して培養し、菌の量と種類を調べる方法です。一定時間、培地を開放して自然に落ちてくる菌を捕まえる落下菌法と、機器で一定量の空気を吸引して培地に吹きつける方法があります。
文部科学省のカビ対策専門家会合報告書は、文化財の収蔵施設について「展示室・収蔵庫の空中浮遊菌については、施設管理の上で、微生物学的な清浄度の指標としてモニタリングし、活用していくことが望まれる」と述べています。空気中の菌の量を、その空間の清浄度を示す指標として使うという考え方です。
(2)付着している菌を調べる(拭き取り)
壁面や部材の表面を綿棒などで拭き取り、そこにいる菌を調べる方法です。同報告書は、屋外建造物など高湿度環境の施設について「施設現場において拭き取り調査を行い、常在菌を把握することが重要」とし、必要に応じて空中浮遊菌調査も行って比較することを勧めています。
空気と表面、両方を見ることで初めて分かることがあります。空気中の菌が多いのに表面に見当たらなければ、発生源は別の場所(床下、天井裏、ダクト内など)にある可能性が出てきます。
4. 検査で「分かること」
検査結果から読み取れるのは、主に次の4点です。
- 菌の量:その空間・その表面に、どれだけの菌がいるか
- 菌の種類:どのカビが優勢か。文部科学省の報告書では、書籍等に増殖することが多い例としてユーロチウム・ハーバリオーラム、彫刻等に増殖することが多い例としてクラドスポリウム・クラドスポリオイディスが挙げられています
- 場所ごとの差:室内と屋外、部屋Aと部屋B、床上と床下を比較することで、どこが異常なのかが見えてきます
- 施工前後の変化:同じ方法で測り直すことで、対策の効果を数値で確認できます
とくに3番目の「場所ごとの差」は、検査の中心的な価値です。1か所だけ測っても解釈が難しく、比較して初めて意味を持つデータだと考えてください。
5. 検査で「分からないこと」
一方で、検査には限界があります。依頼前に理解しておいていただきたい点です。
(1)「安全/危険」の線引きはできない
住宅やオフィスの室内における真菌数について、日本には法令で定められた基準値がありません。したがって、検査結果を見て「この数値は基準オーバーです」と断定することはできません。屋外との比較や、同じ建物内の他の場所との比較といった相対的な読み方が基本になります。数値だけで健康影響を判断することもできません。体調に関する不安がある場合は、医療機関にご相談ください。
(2)培養できない菌は数えられない
培地で育てる方法では、その培地・その条件で発育する菌しか計上されません。条件が合わない菌は、そこにいても結果に現れません。ひとつの検査結果が、その空間のすべてを表しているわけではないということです。
(3)測ったその瞬間の状態しか分からない
空気中の菌の量は、季節、天候、空調の稼働状況、人の出入り、清掃の直後かどうかで大きく変動します。一度の測定で結論を出すのではなく、条件をそろえて定点で繰り返すことが望ましい理由がここにあります。
6. 検査の前に、自分でできる確認
費用をかけて検査する前に、整理しておくと精度が上がることがあります。
- いつから、どの季節に出るか。冬だけなら結露、梅雨から夏なら湿度、通年なら漏水や地面からの湿気が疑われます
- どの範囲に出ているか。1か所だけか、面で広がっているか、北側に集中していないか
- 建物側の変化。雨漏りの修理歴、空調機の更新、間取りの変更、家具の配置換えなど、発生時期と重なる出来事がないか
- 温湿度の記録。数日でもよいので、問題の場所と、比較用に別の場所で測っておく
これらの情報があると、検査を「どこで、どの方法で行うか」の設計が的確になります。やみくもに測るより、はるかに少ない回数で答えに近づけます。
真菌検査を実際に活用した事例については、当ブログの「基礎断熱+第1種換気システムでのカビ問題を見逃さないために」で解説しています。基礎断熱住宅の第1種換気システムで起こるカビ問題を、微生物対策協会が推奨する真菌検査を用いて確認していく流れを紹介した記事です。あわせてご覧ください。
(参考)検査に適した時期
| 目的 | 適した時期 | 理由 |
|---|---|---|
| 発生ピークの把握 | 梅雨〜夏 | 湿度が高く、菌の量が最も出やすい |
| 結露起因の切り分け | 冬 | 結露が起きている場所を、発生位置と重ねて確認できる |
| 施工効果の確認 | 施工前と同条件・同季節 | 季節差が大きいため、時期をずらすと比較にならない |
「対策後に測ったら減っていた」という結果は、季節が変わっただけの可能性があります。効果を判断するなら、前回と同じ季節・同じ箇所・同じ方法が原則です。
7. よくある3つの誤解
誤解1:見えていなければ、いない
カビは目に見える大きさになるまで増殖して初めて認識されます。空気中の胞子や、壁紙の裏側・床下で進行している状態は、目視では分かりません。「カビ臭いのに見当たらない」というご相談の多くは、見えない場所で進行しているケースです。
誤解2:消毒すれば除去になる
文部科学省の報告書は、薬剤について「抗菌剤の多くはカビへの効果がほとんどなく、防カビ剤の多くは細菌への効果が低い」と整理しています。抗菌と防カビは別のもので、細菌向けの消毒がカビに同じように働くとは限りません。また、死んだ菌体がその場に残れば、汚れとしての問題やアレルゲンとしての懸念は残ります。除去と殺菌は、分けて考える必要があります。
誤解3:一度の検査で原因まで特定できる
検査は、状況を数値化する手段です。原因の特定には、検査結果に加えて、建物の構造、設備の稼働状況、季節ごとの温湿度、水まわりの履歴といった情報を重ねる作業が必要です。検査単独で結論が出るケースは、むしろ少数です。
8. 検査を依頼するときの確認事項
検査を外部に依頼する場合、次の点をご確認ください。
- 測定箇所の設計:何か所を、どういう理由で選ぶのか。比較対象(屋外や正常な部屋)が含まれているか
- 方法の明示:落下菌法か吸引法か、拭き取りを併用するか。培養条件はどうか
- 結果の説明:数値と菌種を渡されて終わりではなく、何が読み取れるかの解釈が付くか
- その後の提案:発生要因に対する環境側の改善提案があるか。表面処理だけの提案になっていないか
- 費用:測定箇所数や方法によって変動します。現地の状況を確認したうえでの見積りが前提になります
検査は目的ではなく手段です。「結果をどう使うか」まで示されない検査は、費用に見合いにくいと考えています。
まとめ
法令に基づく空気環境測定に、カビは含まれていません。測っていないのですから、把握できていないのは当然です。
カビ菌検査で分かるのは、菌の量と種類、そして場所ごとの差です。反対に、法令の基準値がない以上、単独の数値で安全・危険を線引きすることはできません。比較のためのデータとして使うのが、正しい使い方です。
そして検査は、原因を特定して対策につなげるための手段です。結果の解釈と、環境側の改善提案までがセットになって、初めて意味を持ちます。
MIST工法®カビバスターズ本部(株式会社せら)では、カビ菌検査による発生要因の特定から、素材を傷めないことを前提とした除去・防カビ処理まで対応しています。「原因が分からないまま再発を繰り返している」という段階でのご相談も歓迎します。全国の加盟店ネットワークで承ります。
参考資料(一次情報)
- 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」(建築物における衛生的環境の確保に関する法律に基づく空気環境の調整基準)
- 文部科学省「学校環境衛生基準」(令和8年2月27日 一部改正通知、令和8年4月1日施行)
- 文部科学省「カビ対策専門家会合 報告書(カビの発生予防と早期発見のために)2.カビ対策のために必要な方策」
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。建物ごとに適切な検査方法・対策は異なります。健康影響に関する判断は医療機関にご相談ください。費用は現地調査を経た見積りによります。















