畳にカビが出たとき、多くの方がまず調べるのは「どうやって取るか」です。ただ、実際の現場で見ていると、取り方を間違えて畳を傷めてしまうケースと、取った数週間後に同じ場所へ再発するケースが、ほぼ同じ頻度で起きています。
この記事では、家庭でできる畳のカビ取りの手順を示したうえで、やってはいけない処置と、再発を止めるために効く一手を、公的な基準値にもとづいて整理します。
結論:畳のカビは「取り方」より「湿度70%」で決まる
先に結論を3つ挙げます。
- 取るだけでは再発します。カビが生えたのは畳が汚れていたからではなく、その部屋の湿度と温度がカビにとって好条件だからです。原因を残したまま表面だけ拭いても、条件が変わらなければまた生えます。
- 目安は相対湿度70%以下。厚生労働省の建築物環境衛生管理基準では、相対湿度を40%以上70%以下、温度を18℃以上28℃以下に保つことが定められています。この基準が直接かかるのは延べ面積3,000㎡以上の特定建築物ですが、住宅でも判断のものさしとして使えます。
- 畳を濡らす処置は最後にします。拭き掃除で水分を残せば、それ自体がカビにとって好条件になります。乾かすところまでが一つの作業です。
なぜ現代の住宅では、畳にカビが集中するのか
かつての木造住宅は、畳を敷く床板と床板の間に隙間があり、床下から抜ける通気が確保されていました。住まい方の側でも、一日に何度も窓を開ける習慣がありました。
今の住宅は事情が違います。サッシの気密性が上がり、壁も天井もビニールクロスで覆われています。そうすると、室内で吸ったり放したりできる素材が、畳だけという状態になりやすい。加えて畳を敷く下地に合板を敷き詰めると、床下からの通気も期待できません。室内で発生した水蒸気の行き場が、畳に集中します。
畳の側にも理由があります。畳表のい草も、わらを圧縮した畳床も、空気中の水分を吸って放す素材です。この性質は本来は長所ですが、周囲の湿度が高い状態が続くと、吸ったまま放せない状態になります。そこへカビにとって適温である20℃台が重なると、条件が揃ってしまいます。
畳のカビ取り手順
カビが表面にとどまっていて、範囲がふとん1枚分ほどまでなら、自分で処置できる範囲です。
用意するもの
- 消毒用エタノール(畳用にスプレー容器へ移すと扱いやすい)
- 使い捨てできる布、または柔らかいブラシ
- ゴム手袋とマスク
- 扇風機かサーキュレーター
手順
- 窓を開け、換気してから始めます。カビの胞子を室内に舞わせたくないので、作業する部屋の窓は2か所開けて風の通り道を作ります。手袋とマスクは必ず着けてください。
- カビの部分にエタノールを吹き、しばらく置きます。いきなりこすらないのがポイントです。乾いた状態でこすると、胞子を空気中に散らし、畳の目の奥へ押し込むことになります。
- 畳の目に沿って、やさしくかき出します。目に逆らうと畳表を毛羽立たせます。ブラシを使う場合も、力ではなく回数で落とします。
- 拭き取ったら、完全に乾かします。ここが一番大事な工程です。晴れた日に行い、扇風機を畳表へ斜めに当てて風を流します。エアコンの除湿と併用すると早く乾きます。
- 畳を上げられるなら、下地も同じように処置します。畳の裏と床板の間は、カビが最も残りやすい場所です。掃除機をかけ、同様に拭いて乾かします。乾いた新聞紙を敷いておくと、しばらくは湿気の逃げ場になります(ただし新聞紙自体が湿るので、定期的な交換が前提です)。
やってはいけないこと4つ
1. 塩素系と酸性タイプの洗剤を混ぜない
これは畳に限らず、家庭内のカビ取りで最も重い事故につながります。塩素系の製品と酸性タイプの製品が混ざると有害なガスが発生します。国民生活センターは2026年3月18日に「住宅用塩素系洗浄剤の使い方-まぜるな危険!浴室などで事故が発生しています-」を公表し、注意を呼びかけています。
「別々に使ったから大丈夫」とも限りません。前に使った洗剤が流れきっていない場所で次を使えば、その場で混ざります。
2. 濃い塩素系漂白剤を畳表に使わない
塩素系漂白剤には脱色作用があります。青みのある新しい畳表ほど色が抜けやすく、抜けた色は戻りません。カビは取れたが畳が白く斑になった、という状態は珍しくありません。畳表に対しては、まずエタノールを試すほうが畳を傷めにくい方法です。
3. カビを掃除機で吸い取らない
掃除機は排気を出します。フィルターを通り抜けた胞子を、部屋中に撒くことになりかねません。吸うのは「乾いて落ちた後」で、生えている状態のカビに直接ノズルを当てるのは避けてください。
4. 濡れたまま終わらない
拭いた直後の畳は、作業前より水分を含んでいます。乾かさずに家具を戻せば、数日後に同じ場所へ再発します。手順4を省略した場合、その処置は「カビに水をやった」だけになります。
再発させないための湿度管理
カビ取りは対症療法です。再発を止めるのは、次の3つの積み重ねになります。
- 湿度を測る。まず温湿度計を和室に置いてください。感覚では判断できません。70%を超える時間が続いていないかだけを見ます。
- 空気を動かす。換気は「入口と出口」で成立します。窓を1か所だけ開けても空気は流れません。対角線上の2か所を開けるか、1か所+サーキュレーターで流れを作ります。
- 畳の上に物を置きっぱなしにしない。ふとんを敷きっぱなしにする、家具を壁にぴったり付ける、カーペットを重ねる。いずれも畳表の呼吸を止め、その下だけ湿度が上がります。カビが四角く生えていたら、ほぼこの原因です。
なお、湿気やカビのある建物と健康の関係については、WHOが2009年の室内空気質ガイドラインで、呼吸器症状や喘息の悪化などのリスク上昇を示しています。同ガイドラインは、安全といえる定量的な基準値は設定できないとしたうえで、湿気とカビを防ぐこと自体を勧告しています。
時期別に見た、畳のカビ
畳のカビは一年中同じ理由で出るわけではありません。時期によって、止めるべき原因が違います。
- 梅雨(6〜7月):外気そのものが高湿度です。窓を開ける換気が裏目に出る時期で、除湿機やエアコンの除湿を併用しないと湿度が下がりません。「換気したのに悪化した」はこの時期に起きます。
- 夏(8〜9月):温度と湿度がどちらもカビの好条件に入ります。とくに閉め切った不在時間が長い家、来客用の使っていない和室で進行します。使っていない部屋ほど危ないのが畳のカビです。
- 秋(10〜11月):夏に蓄えた湿気が残ったまま気温だけ下がります。見た目が落ち着くため見逃されやすく、この時期の点検が翌年を左右します。
- 冬(12〜2月):結露が主役に変わります。窓際に敷いた畳、外壁に面した部屋の隅など、冷える面に接した畳で局所的に出ます。部屋全体の湿度は低いのに一角だけカビる場合は、まず結露を疑ってください。
つまり、梅雨と夏は「部屋全体の湿度」、秋冬は「冷たい面の局所的な結露」が原因になります。同じカビでも打つ手が変わります。
自分でやる範囲と、任せたほうがよい範囲
線引きの目安を挙げます。
- 自分でできる:表面に点々と出ている/範囲が畳1枚以内/畳を上げて下地を確認できる/処置後に再発していない。
- 相談したほうがよい:同じ場所に何度も再発する/畳の裏や床板側にも出ている/畳を押すとふかつく、あるいは黒く変色している/部屋全体がかび臭い/表面には見えないのに臭いだけ続く。
とくに「見えないのに臭う」は、見えていないだけで発生源がある状態です。畳の下、壁の裏、床下のいずれかを疑う段階なので、表面の拭き取りでは解決しません。
補足:畳の素材は、この20年で変わっている
「昔の畳はカビなかった」と言われることがありますが、畳そのものも変化しています。農林水産省の資料によれば、令和7年産の畳表は国内生産103万枚に対し、輸入が458万枚。国産シェアは18%で、い生産農家は223戸、作付面積は242haまで減っています(国産のおよそ9割は熊本県産)。
また、畳床もわらだけでなく、断熱材と木質繊維板を組み合わせた建材床が広く使われています。吸放湿の性質は畳床の種類によって変わるため、「畳だから」と一律に語れません。ご自宅の畳がどちらかは、畳店か施工した工務店に確認できます。
よくある質問
Q. カビ取り剤を使えば根本的に解決しますか。
A. 表面のカビは取れますが、湿度が変わらなければ再発します。処置と湿度管理は別の作業です。
Q. 畳を天日に干せば大丈夫ですか。
A. 乾燥には有効ですが、直射日光は畳表を変色させます。風通しのよい日陰に立てかけるほうが畳には優しい方法です。
Q. カビ取り後、どのくらいで再発しますか。
A. 条件次第です。湿度70%を超える状態が続けば数週間で戻ります。逆に湿度が管理できていれば、同じ場所には出にくくなります。
まとめ
畳のカビは、拭き取る技術よりも、その後に湿度を70%以下へ戻せるかどうかで結果が決まります。手順のなかで省略してはいけないのは「乾かす」工程で、ここを飛ばした処置は再発を早めます。
そして、同じ場所に繰り返し出る場合、原因は畳ではなく建物の側にあります。床下の湿気、結露、漏水。表面の処置を繰り返すより、発生源を特定するほうが結果的に早く終わります。
参考資料(一次情報)
- 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」(建築物における衛生的環境の確保に関する法律/相対湿度40%以上70%以下、温度18℃以上28℃以下ほか)
- 農林水産省「いぐさ(畳表)をめぐる事情」令和8年1月(令和7年産の畳表生産量・輸入量・国産シェア、い生産農家戸数、作付面積)
- 国民生活センター「住宅用塩素系洗浄剤の使い方-まぜるな危険!浴室などで事故が発生しています-」2026年3月18日公表
- World Health Organization「WHO guidelines for indoor air quality: dampness and mould」2009
※当社は医療機関ではありません。健康上の症状については医療機関にご相談ください。本記事は室内環境の管理という観点から情報を整理したものです。












