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カビとは何か|菌糸・胞子・生活環の3つを知ると、対策の順番が変わる

2026/09/01

浴室の天井に黒い点が出た。押し入れの奥が白くけばだっている。多くの場合、私たちが「カビ」と呼んで見ているのは、カビの一部分、しかも最後に現れる部分です。

この連載では、カビの基礎知識を10回に分けて整理します。第1回は、いちばん土台になる話です。カビの体はどうできていて、どうやって増えるのか。ここを押さえるだけで、「拭く」「消毒する」「乾かす」のうち、どれを先にやるべきかの判断が変わります。

結論:色を落とすことと、カビを止めることは別の作業

先に結論です。カビ対策でつまずく原因のほとんどは、「見えている色」を相手にしてしまうことにあります。

カビの体は、糸状の「菌糸」と、粉のように飛ぶ「胞子」でできています。私たちが目にする黒や青の色は、その多くが胞子の色です(東京都保健医療局「食品衛生の窓」)。つまり色が消えても菌糸は残っていることがあり、逆に色がまだ薄くても、内部では菌糸が広がっていることがあります。

そして胞子は、条件がそろえば2〜3日で目に見える集落になり、1週間もすると大量の胞子を周囲にまき散らします。同じ場所に何度も出るのは、この循環が途切れていないからです。

だから対策の順番は、色を落とすことではなく、循環のどこを断つかから考えることになります。

カビの体の構造。素材の表面から伸びる菌糸と、その先端につく胞子を示した図
図1 見えている色は胞子の色。菌糸は素材の表面下にも入り込む

1. カビの体は「菌糸」と「胞子」の2つでできている

カビはキノコや酵母と同じ真菌類に分類されます。その形態について、東京都保健医療局は次のように説明しています。

カビは、糸のような菌糸胞子から成り立っている。菌糸は盛んに枝わかれしながら生育し、集合したものは菌糸体と呼ばれる。胞子は球形・楕円形・棒状・三日月状・ラセン状などさまざまな形をしていて、直径2〜10マイクロメートルのものが多い。そして、カビのさまざまな色は、ほとんどがこの胞子の色である——。

2〜10マイクロメートルは、髪の毛の太さのおよそ10分の1以下です。肉眼では1個も見えません。壁の一点に黒い染みが見えている時点で、そこには胞子が集まって色を成しているということになります。

ここから、実務的に重要なことが2つ出てきます。

ひとつは、色は結果であって原因ではないということ。もうひとつは、胞子はその大きさゆえに、空気の流れに乗って動くということです。カビが生えている場所で扇風機を回したり、勢いよくこすったりすると、胞子を部屋中に配って歩くことになります。

材質でカビの有無は判断できない

「うちはビニールクロスだからカビない」「ガラスやタイルなら平気」という判断は成り立ちません。カビは餅やパンのようなデンプン・糖分を含む食品を特に好みますが、人の垢、ペンキの成分、プラスチックまでも栄養源にして発育すると東京都は説明しています。文部科学省「カビ対策マニュアル」も、ガラスや陶器のようにカビの栄養源にならない材質であっても、手の汚れやホコリが付いていればそこから発生しうると明記しています。

2. 生活環——2〜3日で見え、1週間で撒き散らす

カビが増える流れは、ひとつの輪になっています。

胞子が付着する。増殖に都合のよい条件におかれると発芽し、菌糸を伸ばす。2〜3日で目に見える塊(集落)になる。1週間もするとたくさんの胞子を作り、周囲にまき散らす。まかれた胞子は風や水、あるいは人によって別の場所に運ばれ、再び発芽して発育する——。この繰り返しでカビは広がります(東京都保健医療局)。

この「輪」の見方を持つと、いくつかの経験が説明できるようになります。

掃除の翌週にまた出るのは、菌糸を取り除いても、すでにまかれた胞子と、発芽を許す環境が残っているからです。1か所を直したのに別の部屋で出るのは、胞子が運ばれた先で条件がそろったからです。輪のどこか一点を切っても、他が回っていれば輪は元に戻ります。

胞子は「条件が悪い」だけでは死なない

輪を断ちにくい理由は、胞子のしぶとさにもあります。文部科学省「カビ対策マニュアル」基礎編によれば、カビは酸素がなければ発育できない一方で、無酸素や窒素に置き換えた環境でもカビ胞子は死滅せず生存しており、酸素の条件が整うと直ちに発芽して増殖を始めます。凍結させた場合も、水が氷結して利用できなくなるため増殖は止まりますが、胞子は生きています。0℃付近でも、半年あるいは数年後に目視できるまで育つ低温性のカビが存在するため、冷蔵保存であっても油断はできないとされています。

さらに、カビの増殖初期は肉眼ではまったく観察できません(同 基礎編)。「見えないから発生していない」とは言い切れない、というのが出発点になります。

カビが広がる循環を4段階で示した図。胞子の付着、2〜3日で集落、約1週間で胞子放出、運搬され再び発芽
図2 輪のどこか一点を切っても、他が回っていれば元に戻る

3. 育つ条件は4つ。でも現実に断てるのは1つだけ

東京都保健医療局は、カビの発育は栄養源・水分・温度・酸素の4つの要素に影響を受けるとしています。あわせて、カビは湿度70%以上と、細菌より低い水分でも発育できるため乾いた食品にも生えること、酸素がないと発育できないこと、ほとんどのカビは10〜30℃の温度が必要であることを挙げています。

4つ並ぶと「どれから手を付けるか」で迷いますが、住宅や施設という条件で考えると、選択肢はかなり絞られます。

条件 カビにとっての必要量 住宅・施設で断てるか
栄養源 デンプン・糖分のほか、垢・ペンキ成分・プラスチックまで △ ゼロにはできない。清掃で減らすのが現実的
水分 湿度70%以上で発育。細菌より少ない水分でも足りる ◎ 除湿・換気・断熱で最も動かしやすい
温度 ほとんどのカビは10〜30℃ × 人が快適な室温と重なるため、下げて抑えるのは非現実的
酸素 酸素がないと発育できない × 人がいる空間で酸素は減らせない

出典:東京都保健医療局「食品衛生の窓」カビQ&A をもとに作成

つまり実質的に制御できるのは水分だけで、栄養源はそれを補助する立場です。「カビ対策=湿度管理」と言われるのは、精神論ではなく、消去法の結果です。

カビの生育4条件と、住宅や施設で制御できるかどうかを整理した図
図3 栄養源・温度・酸素は断ちにくい。動かせるのは実質的に水分だけ

4. 湿度の「ものさし」は、目的によって違う

湿度の基準はいくつかあり、数字が違うので混乱しやすいところです。目的が違うためです。

出典 数値 目的
厚生労働省 建築物環境衛生管理基準 相対湿度40%以上70%以下/温度18℃以上28℃以下 在室者の衛生環境。カビは測定7項目に含まれない
東京都保健医療局 カビは湿度70%以上で発育できる 食品にカビが生える条件の目安
文部科学省 カビ対策マニュアル 水分活性0.6以下=相対湿度を常時60%以下 資料・文化財の劣化抑制(より厳しい)

もうひとつ、相対湿度は温度によって動く値だという点も押さえておいてください。空気が含む水分の量が同じでも、温度が下がれば相対湿度は上がります。冬に窓際だけカビるのは、部屋全体が湿っているからではなく、冷たい面のまわりだけ局所的に相対湿度が高くなっているためです。この仕組みは第4回「結露はなぜ起きるのか」で詳しく扱います。

建築物衛生法の温度基準は、令和4年4月1日から下限が17℃から18℃に改められています(厚生労働省)。

実務的な読み方はこうです。70%は「ここを超えたら生える」という警戒線であって、安全圏ではありません。乾いた環境でも生きる好乾菌がいるため、文部科学省は資料保存の場面で60%以下を求めています。住宅でも、結露やカビの再発に悩んでいる場所なら、70%ではなく60%を目標にするほうが余裕が生まれます。

5. 「拭いたのに色が残る」「熱で殺せないのか」に答える

基礎知識を押さえると、よくある2つの疑問にも答えが出ます。

色が落ちない

文部科学省「カビ対策マニュアル」基礎編は、資料表面に発生したカビはすでに組織内部にまで菌糸を伸ばしており、生育に伴って色素を出し、着色した胞子を付けるため、カビの産生色素や胞子による着色は化学的にも物理的にも除去が非常に困難だとしています。さらに、カビによる劣化は不可逆的で元には戻らないとも明記されています。色が残るのは掃除の腕の問題ではなく、素材の中で起きたことの結果です。

熱で殺せないのか

菌糸だけなら比較的低い温度で死滅しますが、胞子は違います。同マニュアルは、乾いた状態での加熱では胞子を死滅させるのに120℃以上で60〜120分程度が必要で、資料に付着・生育したカビの加熱殺菌は不可能だと結論づけています。家庭や建物の壁で現実的に到達できる温度ではありません。

なお、カビ胞子は殺菌してもアレルゲンであり、吸い込む量を抑える必要があります。体調によっては日和見感染にも注意が要ります(同マニュアル 実践編)。作業時はマスクと手袋を使い、健康面で気になる症状がある場合は医療機関にご相談ください

まとめ——第1回の要点3つ

  • 見えている色は胞子の色。色が消えても菌糸は残り、色が薄くても内部で広がっていることがある
  • 2〜3日で見え、1週間で撒く。掃除だけでは輪が回り続ける。断つべきは循環であって染みではない
  • 4条件のうち現実に動かせるのは水分だけ。湿度は70%を警戒線、60%を目標線として使い分ける

【施工事例プレースホルダ:実際の住宅・施設での発生状況と処置の記録をここに挿入】

MIST工法®カビバスターズ本部(株式会社せら)では、カビ菌検査による現状把握から、素材を傷めにくい方法での除カビ、再発を防ぐための環境面のご提案までを行っています。同じ場所に繰り返し出ている、臭いはあるのに見当たらないといった状況は、循環のどこかが切れていないサインであることがあります。費用は現地調査を経たお見積りが前提となり、記載できるのは目安までです。まずは状況をお聞かせください。

次回(第2回)は、この4つの条件をもう一段掘り下げて、「実際に断てるのはどれか」を住まいの場所別に見ていきます。

関連ページ:カビ菌検査MIST工法®とはサービス一覧実績と施工例

参考資料(一次情報)

  • 東京都保健医療局「食品衛生の窓」カビQ&A
  • 文部科学省「カビ対策マニュアル」基礎編(2008年)
  • 文部科学省「カビ対策マニュアル」実践編(2008年)
  • 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の建物や資料に対する処置方針を保証するものではありません。健康面の症状については医療機関にご相談ください。