前回の第2回では、カビが育つ4つの条件のうち現実的に断てるのは水分だけだとお伝えしました。その水分の話には、必ず2つの言葉が出てきます。水分活性(Aw)と相対湿度(RH)です。この2つは似ているようで、測っている対象がまったく違います。
そして、この違いが分かると「なぜカビ対策の目安が湿度60%なのか」がすっきり理解できます。今回はここを整理します。
1. Awは「材料」が抱える水、RHは「空気」が抱える水。カビが直接効くのは材料側のAw。
2. カビが止まるのは材料のAw0.6以下。ただしAwは毎日は測れないので、釣り合う空気のRHを60%以下に保つことで代わりに管理する。これが「湿度60%」の根拠。
3. ただしRHは温度で動く。部屋の平均が55%でも、冷たい面では露点に達して結露し、そこだけカビが育つ。だから「湿度計の数字」だけを見ても足りない。
水分活性(Aw)とは|材料が抱える「使える水」
文部科学省の「カビ対策マニュアル 基礎編」は、材料の中の水がすべてカビに使えるわけではない、と説明しています。物質中の水は自由水・結晶水・水素結合水・水和水・氷といった状態で存在しますが、微生物が利用できるのは自由水だけです。この自由水の量を0〜1.0の数値で表したものが水分活性(Aw)です。
Awは、材料を密閉容器に入れて落ち着いたときの湿度(平衡相対湿度:ERH)から求めます。同マニュアルは「試料を入れた密閉容器内の平衡相対湿度が90パーセントならば、Awは0.9となる」と説明しています。つまりAwは材料そのものの状態を表す指標です。木材が、紙が、壁材が、いまどれだけ「カビに使える水」を抱えているか——それがAwです。
そして第2回でも触れたとおり、同マニュアルは「通常では対象とする物質のAwを0.6以下に保持するとカビは全く生育できない」としています。カビを止めるゴールは、材料のAwを0.6以下にすることです。
相対湿度(RH)とは|空気が抱える水の「割合」
一方、相対湿度(RH)は空気の側の指標です。その場の空気が、いまの温度で抱えられる水分量の限界に対して、実際にどれだけ水分を含んでいるかを%で表します。ふだん湿度計で見ている数字はこちらです。
ここで大事なのは、空気そのものにはカビは生えないということです。RHが高いこと自体が問題なのではなく、湿った空気が材料を湿らせ、材料のAwが上がって初めてカビが育ちます。RHは「材料を湿らせる原因」であって、カビが直接反応する数値ではありません。

なぜ「湿度60%」が基準になるのか
ここまでで、2つのことが分かりました。カビを止めたいのは材料のAw(0.6以下)。でも現場で毎日測れるのは空気のRH。この2つをどうつなぐのか——答えは「釣り合い(平衡)」です。
閉じた空間では、材料と空気が時間をかけて水分をやり取りし、やがて釣り合います。釣り合ったとき、材料のAwは空気のRHに近づきます(ERH90%=Aw0.9、という関係がまさにこれです)。ということは、空気のRHを60%以下に保てば、材料のAwもおおむね0.6以下に落ち着く、と考えられます。
この論理を、同マニュアルははっきり書いています。「通常では対象とする物質のAwを0.6以下に保持するとカビは全く生育できない。これを維持するために環境の相対湿度を温度変化に拘わらず常に60パーセント以下に保つことが必要である」。「湿度60%」は、材料のAw0.6を空気側に置き換えた数字だったのです。

なお、資料によって目安の数字は少しずつ違います。文部科学省は「60%以下」、国立国会図書館は「恒常的に65%を超えるとカビの発生確率が高まる」として65%を1つの目安に、厚生労働省の建築物環境衛生管理基準は人が使う建物として40〜70%を求めています。どれも「材料を濡らさない湿度に空気を保つ」という同じ考え方で、対象や安全の見方の違いが数字の差になっています。迷ったら、より厳しい60%側に寄せておくと安全です。
| 指標 | 何を測っているか | カビとの関係 | 目安 |
|---|---|---|---|
| 水分活性(Aw) | 材料が抱える自由水の量(0〜1.0) | カビが直接反応する。Aw0.6以下で生育不可 | Aw0.6以下 |
| 相対湿度(RH) | 空気が抱える水分の割合(0〜100%) | 材料を湿らせる原因。空気自体にカビは生えない | 60%以下(資料により60〜65%) |
出典:文部科学省「カビ対策マニュアル 基礎編」、厚生労働省 建築物環境衛生管理基準、国立国会図書館「温湿度管理」
落とし穴:湿度計が「55%」でも安心できない理由
「では湿度計を60%以下に保てば大丈夫か」というと、ここに大きな落とし穴があります。RHは温度で動くからです。
空気が含む水分の量が同じでも、温度が下がると相対湿度は上がります。同マニュアルは「大気中の水分は温度が低下することにより飽和水蒸気圧が低下し、結露が起こる」と説明し、この結露が始まる温度を露点と呼んでいます。露点まで冷えた面ではRHが100%に達し、水滴になります。
つまり、部屋の真ん中の湿度計が55%を示していても、北側の壁、窓ガラス、断熱の切れ目、配管まわりといった冷たい面の表面では、局所的に露点に達して結露していることがあります。同マニュアルも収納庫について「急激な温度変化により結露や水分活性が上昇し、カビ等の生育可能領域に入ると増殖が始まる」と警告しています。結露した面は、そこだけAwが跳ね上がり、カビの生育域に入ります。

ここから、現場での対策が2方向あることが見えてきます。「空気の湿度を下げる」ことと、「冷たい面をつくらない」ことの両方です。除湿・換気で空気側のRHを下げると同時に、断熱で面の温度を上げ、空気を動かして滞留を防ぐ。片方だけでは、もう片方で結露が起き続けます。
| アプローチ | ねらい | 具体策の例 |
|---|---|---|
| 空気の湿度を下げる | 空気側のRHを60%以下に保ち、材料へ水分を渡さない | 除湿機・エアコンの除湿、換気、水蒸気の発生源(入浴・調理・洗濯物)を室内にためない |
| 冷たい面をつくらない | 面の温度を露点より上に保ち、局所的な結露を防ぐ | 断熱の見直し、窓まわりの対策、家具を壁から離す、空気を滞留させない |
| 急な温度変化を避ける | 結露と水分活性の急上昇を起こさない | 収納庫・書庫の空調を急に止めない、外気を入れるときの温度差に注意 |
※有効な対策は建物の構造や使い方によって変わります。原因の特定には現地での確認が必要です。
よくある質問(検索の多い疑問)
水分活性(Aw)とは何ですか?
食品や素材の中の水のうち、微生物が利用できる「自由な水」の割合を0〜1で表した数字です。水分の量そのものではなく、カビや細菌が使える水がどれだけあるかを示します。
水分活性と相対湿度はどう違いますか?
相対湿度は空気中の水蒸気の割合、水分活性は物の中の利用できる水の割合です。物を同じ湿度の空気に長く置くと、物の水分活性は空気の相対湿度(%を100で割った値)に近づいていきます。
湿度60%以下がカビ対策の目安になるのはなぜ?
多くのカビは、素材の表面の水分活性が高いほど育ちやすく、空気の湿度を下げると素材の表面も乾いて育ちにくくなるためです。ただし、冷えた壁や窓ぎわは部屋の中心より湿度が高くなるため、場所ごとの確認が必要です。
まとめ
2. カビが止まるのは材料のAw0.6以下。Awは毎日測れないので、釣り合う空気のRHを60%以下に保つことで管理する。これが「湿度60%」の正体。
3. RHは温度で動くので、湿度計の数字だけでは足りない。冷たい面の結露を防ぐ「断熱・空気を動かす」対策とセットで考える。
「湿度を下げているのにカビが出る」というとき、多くは湿度計の数字と、実際にカビが育っている冷たい面・滞留部の状態がずれています。次回(第4回)は、その結露そのものがなぜ起きるのかを、露点と飽和水蒸気量の関係からもう一歩詳しく整理します。
ご相談ください
湿度管理をしていても同じ場所にカビが出る場合、原因は「空気の平均湿度」ではなく「局所的に濡れている面」にあることがほとんどです。どの面が、いつ、なぜ露点に達しているのかは、建物の構造や使い方によって変わるため、現地での確認が必要になります。
調査でどこまで分かるのかはカビ菌検査、対応できる内容はサービス一覧、これまでの取り組みは施工実績、技術の考え方はMIST工法についてのページにまとめています。費用は建物の状態と範囲によって変わるため、現地調査のうえでお見積りをご提示します。
参考資料(一次情報)
- 文部科学省「カビ対策マニュアル 基礎編」(自由水・水分活性Aw・平衡相対湿度ERH・露点・結露、Aw0.6以下=相対湿度60%以下の維持)
- 厚生労働省 建築物環境衛生管理基準(居室の相対湿度40〜70%)
- 国立国会図書館「温湿度管理」(恒常的に65%を超えるとカビの発生確率が高まる/65%を1つの目安)












