「夏になると咳が続く」「家にいるときだけ鼻がつらい」。こうした症状の背景に、住まいのカビが関わっている場合があります。
この記事は、カビと健康の関係について公的機関や学会が示している内容を整理したものです。症状の診断や治療については、必ず医療機関にご相談ください。当社が扱えるのは、住まい側の環境をどう変えるかという部分です。
結論
- 手がかりは「家を離れると軽くなるかどうか」です。厚生労働科学研究のシックハウス症候群の定義でも、夏型過敏性肺炎の特徴としても、この点が共通して挙げられています。
- WHOは、湿気やカビのある建物と健康影響の関連を認めたうえで、「安全といえる基準値は設定できない」としています。だから予防、つまり湿気とカビを防ぐこと自体が勧告されています。
- 住まい側でできるのは、湿度を下げることと換気です。厚生労働省の基準では相対湿度40%以上70%以下とされています。
カビが関わるとされる健康影響
アレルギー症状
カビの胞子はアレルゲンになりうるとされています。鼻炎や結膜炎の症状、喘息の悪化などが報告されています。WHOの室内空気質ガイドライン(2009年)は、湿気やカビのある建物で呼吸器症状、呼吸器感染症、喘息の悪化のリスクが上がることを示しています。
同ガイドラインは、欧州・北米・豪州・インド・日本の屋内環境の10〜50%が湿気やカビの影響を受けていると推計しています。特別な家の話ではありません。
夏型過敏性肺炎
日本の住宅特有の問題として知られているものです。原因となるのはトリコスポロン・アサヒ(Trichosporon asahii)という真菌で、繰り返し吸い込むことで肺に炎症が起きるとされています。
公益社団法人福岡県薬剤師会の解説によれば、この菌は温度20℃以上・湿度60%以上の高温多湿な環境で増殖し、繁殖場所としてキッチンのシンク周辺、洗面所、浴室、脱衣所、洗濯機置き場周辺、押入れ、窓のサッシまわり、エアコン内部が挙げられています。発症は6〜9月に多く、主な症状は息切れ、咳嗽、発熱とされています。
そして特徴として、抗原のある環境から離れると症状が軽快することが挙げられています。「旅行や入院で家を空けたら治まり、帰宅したら戻った」という経過が、判断の手がかりになります。
シックハウス症候群
化学物質の話として知られていますが、カビや湿気も要因として位置づけられています。
厚生労働科学研究「科学的エビデンスに基づく新シックハウス症候群に関する相談と対策マニュアル改訂新版」(2018年2月)では、シックハウス症候群を「①症状(眼、鼻、喉・呼吸器、皮膚、精神神経症状)が毎週のようによく・あるいはときどきある ②かつ、その症状は家を離れると改善する」と定義しています。
同マニュアルは、湿度環境(ダンプネス)への対策も重要としたうえで、真菌とダニアレルゲンがリスク要因として示唆されたと記しています。対策の基本は「①汚染の発生・流入を抑える、②換気により速やかに希釈・排出・排除を図る」とされ、具体策として湿度を下げること、換気、床のコンクリートを乾かすことが挙げられています。
「家を離れると軽くなる」が共通の手がかり
ここまでに出てきた3つのうち、シックハウス症候群と夏型過敏性肺炎の両方で、環境から離れると症状が軽くなるという点が挙げられています。
逆に言えば、症状の出方と場所・時間の関係を記録しておくと、医療機関での相談がしやすくなります。次のような点をメモしておくと役に立ちます。
- 症状が出る時間帯(帰宅後、就寝中、起床時)
- 症状が出る部屋(寝室だけ、1階だけ)
- 外泊したときにどうだったか
- 季節との関係(梅雨・夏だけ、冬だけ)
これは自己診断のためではなく、医師に伝える材料としてです。同じ症状でも原因は複数あり、切り分けは医療機関の仕事です。
家の中で原因になりやすい場所
前掲の資料で挙げられている場所と、実際の現場で見る場所はよく一致します。
- エアコン内部:フィルターや内部に積もったホコリと結露水が揃います。運転すると室内へ吹き出します。
- 浴室・脱衣所・洗面所:水を使う空間で、換気が止まっていると乾きません。
- 洗濯機置き場:常に湿っており、掃除の対象から外れやすい。
- 押入れ・クロゼット:閉じたまま空気が動かず、局所的に湿度が上がります。
- 窓のサッシまわり:結露水が溜まる場所です。
- 床下:目に見えないまま進行し、1階だけがかび臭いという形で現れます。
共通しているのは「水がある」と「空気が動かない」の2つです。
湿度の目安
公的な基準は次のとおりです。
- 相対湿度40%以上70%以下(厚生労働省・建築物環境衛生管理基準。延べ面積3,000㎡以上の特定建築物が対象)
- 相対湿度30%以上80%以下(文部科学省・学校環境衛生基準)
WHOのガイドラインは、健康影響について安全といえる定量的な基準値は設定できないとしています。裏を返せば、「ここまでなら大丈夫」という線は引けないので、湿気とカビ自体を減らすしかないということです。
住まい側でできること
- 湿度を測る。症状が出る部屋に温湿度計を置きます。70%を超える時間が続いていないかを見ます。
- 24時間換気を止めない。2003年7月以降に着工した住宅には義務づけられています。切られたままになっていることがあります。
- エアコン内部を確認する。吹き出し口を覗いて黒い点が見えるなら、運転のたびに室内へ出ています。
- 見えない場所を疑う。においだけがあるなら、床下や壁の裏に発生源がある可能性があります。
よくある質問
Q. 咳が続いています。カビが原因でしょうか。
A. 判断は医療機関で行うものです。ただ、症状の出る場所と時間、外泊時の変化を記録しておくと、相談の材料になります。
Q. カビを取れば症状はなくなりますか。
A. 症状と原因の関係は個人によって異なり、断定はできません。当社が扱えるのは住環境の側で、健康上の判断は医師の領域です。
Q. 空気清浄機を置けば十分ですか。
A. 浮遊している胞子には作用しますが、発生源が残っていれば供給は続きます。前掲のマニュアルでも、対策の基本は発生・流入を抑えることと換気とされています。
まとめ
カビと健康の関係については、WHOをはじめとする公的機関がリスクの上昇を示す一方で、安全といえる基準値は設定できないとしています。だから対策は「基準を守る」ではなく「湿気とカビを減らす」という形になります。
そして「家を離れると軽くなるか」——これが、住まいと症状を結びつけて考えるときの共通の手がかりです。心当たりがあれば、まず医療機関にご相談ください。並行して、住まいの湿度を測ってみてください。
参考資料(一次情報)
- World Health Organization「WHO guidelines for indoor air quality: dampness and mould」2009
- 厚生労働科学研究「科学的エビデンスに基づく新シックハウス症候群に関する相談と対策マニュアル改訂新版」2018年2月(研究代表者:岸玲子)
- 公益社団法人 福岡県薬剤師会「夏型過敏性肺炎とは」(情報センターに寄せられた質疑・応答)
- 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」(相対湿度40%以上70%以下、温度18℃以上28℃以下ほか)
- 文部科学省「学校環境衛生基準」(相対湿度30%以上80%以下ほか)
※当社は医療機関ではありません。本記事は室内環境の管理という観点から、公的機関・学会等が公表している情報を整理したものです。症状の診断・治療については医療機関にご相談ください。












