新築や築浅の建物で、入居して1年もしないうちにカビが出る。よくある相談ですが、住まい方が悪いわけでも、掃除が足りないわけでもないことが多い。建物自体がまだ水を抱えているのが原因です。
この記事では、コンクリートに残る「余剰水」がどこへ出ていくのか、それがなぜカビの条件になるのか、そしてカビ側もまたコンクリートを傷めるという往復の関係を整理します。
結論
- コンクリートは打った後も、数年かけて水を出し続けます。その放湿は1年目が最も多く、年を追って減っていきます。
- その水の大半は、室内側へ出ます。外壁面はタイルや防水で仕上げられているため、逃げ場が室内側になるからです。
- だからカビは「新築だから安心」ではなく、新築の1〜2年目こそ出やすい。乾燥期間を取れなかった建物ほど、その傾向が強くなります。
生コンに入っている水は、どれくらいか
コンクリートは、セメント・砂・砂利・水を練り混ぜたものです。このうち水の量を「単位水量」と呼び、コンクリート1立方メートルあたり何kg入っているかで表します。
日本建築学会の建築工事標準仕様書 JASS 5 では、単位水量は185kg/m³以下と定められ、そのうえで「品質が得られる範囲内でできるだけ小さくする」とされています。1立方メートルの中に、多くて185リットル近い水が入っている計算です。
この水のすべてがセメントと反応するわけではありません。水和反応に使われるのは一部で、残りはコンクリートの中に自由水として留まり、時間をかけて外へ出ていきます。これが余剰水です。
JASS 5 が同時に、乾燥収縮率を8×10⁻⁴以下(計画供用期間が長期・超長期の場合)と定めているのも、この「水が抜けていく過程」を管理するためです。乾燥は避けられない前提として設計されています。
余剰水はどこへ出るのか
ここが実務上のポイントです。外壁側はタイルや防水材で仕上げられていることが多く、水蒸気の逃げ道になりません。結果として、余剰水の多くは室内側へ放湿されます。
放湿の量は1年目が最も多く、その後は年ごとに減っていきます。ただし完全にゼロになるわけではなく、竣工から5〜6年経った建物でも、わずかな放湿が認められることがあります。日当たりの条件によっても差が出ます。日照が当たらない北面や、家具で塞がれた壁の内側は、乾きが遅くなります。
つまり入居直後の室内は、住人が思っているより湿気の供給源が多い状態にあります。加湿していない、洗濯物も干していない、それでも湿度が下がらない。そういう相談の背景には、この放湿があります。
カビの側も、コンクリートを傷める
関係は一方通行ではありません。カビが付いたコンクリートは、見た目の問題だけで済まないことがあります。
健全なコンクリートはpH12〜13の強アルカリ性です。この強いアルカリ性が、内部の鉄筋の表面に不動態被膜という保護膜をつくり、錆から守っています。ところが空気中の二酸化炭素、排気ガス中の亜硫酸ガス、酸性雨などの影響でアルカリ性が失われていくと、pHがおおむね11より低くなった時点で、この保護膜は破壊されます(一般社団法人コンクリートメンテナンス協会)。これがいわゆる中性化です。
カビは成長の過程で酵素を出し、周囲の物質を分解して吸収します。コンクリート表面にカビやコケが広がっている状態は、表面の保護層がすでに傷んでいるサインとして読めます。美観の低下が、耐久性の話に接続する地点です。
それでも乾燥期間は取れない
「打った後に十分乾かせばいい」——理屈はそのとおりですが、実際の工程では難しい。躯体が上がればすぐ内装が始まり、内装が終われば引き渡しです。乾燥のためだけに数か月止める工程は、ほとんどの現場で組めません。
だからこそ、引き渡し後の側で手当てする必要があります。建物が水を出し続ける前提で、出た水を溜めない住まい方に切り替えるということです。
新築・築浅でカビが出たときの見分け方
原因が余剰水なのか、それ以外なのかは、出方である程度分かれます。
- 余剰水を疑う:入居1〜2年目/北側やクロゼットなど風の当たらない面に広く薄く出る/特定の水まわりに限らない/加湿していないのに湿度計が高い。
- 結露を疑う:冬に窓際や外壁側の隅だけに出る/壁の下部に線状に出る。
- 漏水を疑う:雨のあとに濃くなる/同じ場所だけが繰り返し/触ると明らかに湿っている。
余剰水と結露は同時に起きることもあります。室内の水蒸気量が多い状態で冷たい面があれば、結露はより起きやすくなるからです。
できる対処
- 湿度を測る。厚生労働省の建築物環境衛生管理基準では、相対湿度を40%以上70%以下に保つこととされています。まずこの範囲に入っているかを確認します。
- 家具を壁から離す。数センチでも空気が通れば、壁面の乾きが変わります。新築1年目のクロゼット裏、タンスの裏は最も出やすい場所です。
- 締め切った部屋をつくらない。使っていない部屋こそ、放湿が溜まります。
- 除湿を「補助」として使う。換気だけでは、外気が高湿度の時期に湿度は下がりません。梅雨と夏は除湿機やエアコンの除湿と併用します。
よくある質問
Q. 新築なのにカビが出ました。施工不良ですか。
A. 必ずしもそうとは限りません。コンクリートの放湿は工程上避けにくく、1〜2年目に出やすい現象です。ただし漏水や結露が原因の場合は別なので、出方の見極めが先になります。
Q. 何年経てば落ち着きますか。
A. 放湿は1年目が最も多く、以降は年ごとに減ります。ただし5〜6年目でもわずかに続くことがあり、条件次第です。
Q. 表面のカビを取れば、コンクリートの劣化も止まりますか。
A. 表面の処置だけでは、水分の供給が続く限り再発します。中性化そのものは別の劣化過程なので、状況によっては建物側の診断が必要です。
まとめ
コンクリートの建物は、竣工した瞬間に完成しているわけではありません。数年かけて水を吐き出しながら、少しずつ落ち着いていきます。その途中でカビが出るのは、住まい方の失敗というより、建物の状態と住まい方が噛み合っていないことのサインです。
そして、放置すればカビは表面の保護層を傷め、建物の耐久性の話に接続していきます。入居1〜2年目は、湿度を測ることに一番価値がある時期だと考えてください。
参考資料(一次情報)
- 日本建築学会「建築工事標準仕様書・同解説 JASS 5 鉄筋コンクリート工事」(単位水量185kg/m³以下、水粉体比の最大値65%、乾燥収縮率8×10⁻⁴以下、許容ひび割れ幅0.3mm)
- 一般社団法人コンクリートメンテナンス協会「中性化とは」(健全なコンクリートのpH12〜13、pHがおおむね11より低くなると不動態被膜が破壊される、原因物質は二酸化炭素・亜硫酸ガス・酸性雨)
- 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」(相対湿度40%以上70%以下、温度18℃以上28℃以下ほか)












