新築住宅の断熱をめぐるルールが変わりました。連載「省エネ住宅時代のカビ」第8回は、令和4年の建築物省エネ法改正で何が変わったのかを整理し、そのうえで「基準に適合すればカビは出ないのか」という問いを考えます。
1. 何が変わったのか
国土交通省の資料によれば、改正前は中・大規模(300㎡以上)の非住宅の新築等に省エネ基準への適合義務が課され、中・大規模の住宅には所管行政庁への届出義務が課されていました。令和4年の改正では、これが次のように変わります。

表1 改正の概要
| 項目 | 改正の内容 |
|---|---|
| 適合義務の対象 | 小規模非住宅、住宅にも拡大される。ただしエネルギー消費性能に及ぼす影響が少ないものとして政令で定める規模(10㎡を想定)以下のものを除く |
| 増改築の扱い | 現行法では増改築後の建築物の全体が対象だったが、改正後は増改築を行う部分のみになる |
| 届出義務 | 基準適合義務の拡大に伴い廃止される(第19条削除) |
| 審査 | 建築確認の中で、構造安全規制等の適合性審査と一体的に実施される(1F・200㎡以下で建築士が設計する場合は審査省略) |
| 施行 | 中小工務店や審査側の体制整備等に配慮して十分な準備期間を確保しつつ、2025年度に施行予定。施行日以後に工事に着手する建築物の建築が対象 |
出典:国土交通省「【建築物省エネ法第10条】省エネ基準適合義務の対象拡大について」

2. 背景にあるもの
国土交通省は、この改正の背景として2050年カーボンニュートラル、2030年度温室効果ガス46%排出削減(2013年度比)の目標を挙げ、我が国のエネルギー消費量の約3割を占める建築物分野における取組が急務としています。第1回で見たZEHの政策目標も、同じ流れの上にあります。
3. 基準に適合すれば、カビは出ないのか
ここが本題です。答えは「基準が定めているのは省エネ性能であって、カビではない」ということになります。
断熱性能が上がることで期待できることはあります。経済産業省は、断熱性能が優れている住宅では家中の温度差が小さくなり、結露やカビの発生を抑えるとの研究成果が出ていると記載しています。国総研も、結露を防ぐことでカビ、ダニ、腐朽菌の増加を抑制できるとしています。
一方で、残る要素もあります。国総研が指摘するとおり、施工時に隙間が多いと所定の断熱性能を発揮することが困難となり、結露の要因ともなり得ます。加えて、配管の漏れや雨水の浸入、閉め切りや加湿といった使い方は、性能値とは無関係に水をもたらします。

表2 基準が扱っているもの/扱っていないもの
| 制度 | 定めていること | カビとの関係 |
|---|---|---|
| 建築物省エネ法 | 建築物のエネルギー消費性能の基準への適合 | 断熱が上がることで結露が減る方向には働くが、カビの量の基準ではない |
| 建築基準法(シックハウス対策) | クロルピリホスとホルムアルデヒドの規制、機械換気設備の設置 | 換気が確保されることは湿気の排出につながるが、対象物質にカビは含まれない |
| 建築物環境衛生管理基準 | 相対湿度40〜70%、温度18〜28℃など | 測定7項目にカビは含まれない。湿度の基準が間接的な目安になる |
出典:国土交通省「建築物省エネ法」「建築基準法に基づくシックハウス対策について」、厚生労働省「建築物環境衛生管理基準」
改正後は、増改築を行う部分のみが省エネ基準適合の対象になります。断熱性能の異なる部分が隣り合うと、境目に温度差が生じることがあります。増改築を計画する際は、既存部分との取り合いをどう扱うか、設計者に確認しておくと安心です。
4. まとめ
- 令和4年改正により、原則としてすべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が義務付けられる(2025年度施行予定)
- 増改築は改正後、増改築を行う部分のみが対象になる。届出義務は廃止される
- 基準は省エネ性能の基準。カビの量を定める基準は建築物環境衛生管理基準にも含まれない
- 断熱は結露を減らす方向に働くが、施工の隙間・漏水・使い方は別に確認する必要がある
新築・改修後にカビの心配がある場合は、カビ菌検査や現地調査もご相談いただけます。処置の考え方はMIST工法®のページをご覧ください。費用は建物の状態によって変わるため、現地調査のうえでのお見積りとなります。












