この10年ほどで、新築住宅の断熱性能は政策として引き上げられてきました。ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)という言葉を目にする機会も増えています。では、断熱と気密が上がった家で、カビの問題はどう変わったのでしょうか。今回から始まる連載「省エネ住宅時代のカビ」の第1回は、その全体像を整理します。
1. まず、政策の流れを確認する
経済産業省 資源エネルギー庁の公開資料によれば、ZEHの政策目標は第4次エネルギー基本計画(2014年4月閣議決定)で「2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」と設定されました。その後、第6次エネルギー基本計画(2021年10月閣議決定)では「2030年度以降新築される住宅について、ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す」とされています。
実績としては、2020年にハウスメーカーが新築した注文戸建住宅の約56%がZEHとなったと記載されています。さらに国土交通省は、令和4年の建築物省エネ法改正により、原則としてすべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合を義務付ける方針を示しています(2025年度に施行予定)。

2. 断熱が上がると、カビは減るのか
結論から言えば、減る面はあります。経済産業省の同じページには、断熱性能が優れている住宅について「家中の温度差が小さくなり、結露やカビの発生を抑えると共に、室温の差による体への負担が小さくなる」との研究成果が出ていると記載されています。
これは、これまでの連載で扱ってきた内容とも一致します。結露は「空気の水分量」と「面の温度」の関係で決まるので、冷える面が減れば結露も減ります。国土交通省 国土技術政策総合研究所の資料でも、結露を防ぐことによりカビ、ダニ、腐朽菌の増加を抑制することができるとされています。
3. ただし、条件そのものは変わっていない
一方で、カビが育つ4条件(水分・栄養・温度・酸素)そのものが変わったわけではありません。水が出れば、断熱等級がいくつであろうと同じことが起きます。そして省エネ住宅では、新しく問われるようになった点があります。
国総研の資料には、次のような指摘があります。外皮平均熱貫流率(UA値)は計算値であり、施工時に隙間が多いと所定の断熱性能を発揮することが困難となり、結露の要因ともなり得る。つまり、図面の性能と現場の仕上がりは別ものだということです。

表1 これまでの住宅と、省エネ住宅で変わること
| 観点 | 断熱性能が低い住宅 | 断熱・気密が高い住宅 |
|---|---|---|
| 室内の温度差 | 部屋ごと・時間帯ごとの差が大きく、冷える面が多い | 家中の温度差が小さくなるとされる |
| 結露の起きる場所 | 窓ガラス、外壁の室内側など、目に見える場所が中心 | 見えない部位(壁内・床下)が相対的に問題になりやすい |
| 換気 | 隙間による自然な換気に頼る部分がある | 機械換気が前提。止めると計画どおりに入れ替わらない |
| 施工品質の影響 | — | 隙間が多いと所定の性能を発揮できず、結露の要因になり得る |
出典:国土交通省 国土技術政策総合研究所「省エネと結露」、経済産業省 資源エネルギー庁「ZEHに関する情報公開について」
4. 「夏型結露」という言葉
もうひとつ、省エネ住宅の時代に押さえておきたいのが夏型結露です。国総研は、これを次のように説明しています。
夏型結露は、室内をエアコンで冷房した際、夏季に水分を大量に含んだ屋外空気が温度の低い床下で水滴になる現象や、雨などにより水分を含んだ外装材が日射で焙られ水分を放出し外壁内で水滴となる現象です。
冬の窓の結露とは、水の来る向きが逆です。次回はこの夏型結露を詳しく扱います。
5. 省エネ住宅で見ておきたい5つのポイント

表2 国総研の資料に出てくる数値
| 項目 | 示されている内容 |
|---|---|
| 相対湿度 | 厚生労働省の資料によると、適切な湿度は50〜60%。高すぎると住宅内の結露やカビの発生リスクが高くなる |
| 開放型暖房器具 | 燃焼に伴い多量の排気ガスや水蒸気を発生。灯油1Lの燃焼で1.13kgの水蒸気が放出されるとされる |
| エアコン・床暖房 | 電気を使用するものは、一般的に水蒸気を発生させない |
| 24時間換気 | 電源は切らないようにと明記されている |
出典:国土交通省 国土技術政策総合研究所「省エネと結露」
UA値やC値は住宅の性能を比べる指標として有効ですが、カビの相談で実際に問題になるのは「水がどこから来ているか」です。性能が高い住宅でも、施工の隙間・配管の漏れ・使い方によって水は入ります。数値が良いことと、いま水が出ていないことは別の話として確認してください。
6. まとめ
- ZEHの政策目標は2014年の第4次エネルギー基本計画で設定され、2020年には注文戸建の約56%がZEHとなった
- 断熱性能が高い住宅では、家中の温度差が小さくなり結露やカビの発生を抑えるとの研究成果があるとされる
- ただしカビの4条件は変わらない。施工の隙間は所定の性能を妨げ、結露の要因になり得る
- 省エネ住宅では、見えない部位の結露と、機械換気が止まっていないかが要点になる
壁内・床下など見えない部位の状況が気になる場合は、カビ菌検査や現地調査もご相談いただけます。処置の考え方はMIST工法®のページをご覧ください。費用は建物の状態によって変わるため、現地調査のうえでのお見積りとなります。












