※この記事は2026年9月に、農林水産省・東京都保健医療局・農研機構の公開情報をもとに内容を全面的に見直しました。
りんごジュースのカビ毒「パツリン」。2025年に米国で17万本を超えるりんごジュースのリコールがあり、「パツリンとは何か」「りんごジュースにカビ毒が入るのはなぜか」「日本のジュースは大丈夫か」と調べる方が増えました。結論から言うと、パツリンは傷んだりんごに入ったカビが作る毒で、加熱では分解せず、日本を含む各国が「50μg/kg(0.050ppm)」という同じ基準で管理している物質です。家庭でできることは、傷んだりんごをジュースやすりおろしに使わないこと、この一点に集約されます。
この記事では、パツリンの正体と、りんごジュースに残る仕組み、日本・国際・米国の基準値、2025年の米国リコールで起きたこと、健康影響の考え方、家庭でできることを、農林水産省と東京都保健医療局の一次情報をもとに整理します。
この記事で分かること
- パツリンとは何か(どのカビが、どんなりんごに、いつ作るか)
- 加熱しても消えない理由と、ジュースに残る仕組み
- 日本・コーデックス・米国FDAの基準値と、耐容一日摂取量
- 2025年 米国マルティネリ社のリコールで起きたこと(事実のみ)
- 健康影響の考え方と、家庭でできること4つ
1. 結論:パツリンは「傷んだりんご」から入り、加熱では消えない
| 要点 | 根拠 |
|---|---|
| 傷ついた・落果したりんごに、土壌中のペニシリウム属(アオカビ)などが侵入し、保管中にパツリンを作る | 農林水産省「いろいろなかび毒」 |
| カビ毒は熱に強く、通常の調理・加熱では分解しない | 農林水産省、東京都保健医療局(100〜210℃・60分以内では完全に分解できない) |
| 日本の基準は りんごジュース・原料用りんご果汁 0.050ppm(50μg/kg)。コーデックスも米国FDAも50μg/kg | 農林水産省(2003年 食品衛生法 清涼飲料水の成分規格)、東京都保健医療局 |
| 家庭でできることは「傷んだりんごを加工に使わない」 | 農林水産省(見えるかびを取り除いても見えないかびが残る/もったいなくても捨てる) |
2. パツリンとは:カビが作る毒、もとは「抗生物質候補」だった
農林水産省によると、パツリンは1942年に発見され、当初は抗生物質として注目されましたが、人に対する毒性が強いことが明らかになって利用が断念され、現在はりんご果汁を汚染するカビ毒として国際的に規制の対象になっています。産生するのは、台風や雹害で落果したり傷がついたりしたりんごに、土壌中にいるペニシリウム属(アオカビ)またはアスペルギルス属(コウジカビ)の一部のかびが傷口から侵入し、果実の保管中に増殖してパツリンを作る、という経路です。農研機構は、リンゴ青かび病菌(Penicillium expansum)がりんご果実でパツリンを産生する頻度が高いとしています。
つまりパツリンは、健康なりんごに自然に含まれる成分ではありません。傷んだ果実の中でカビが作った毒が、そのりんごを搾ったときに果汁に溶け込みます。りんごをそのまま食べる場合は、傷んだ部分ごと捨てれば済みますが、ジュースやピューレは多数の果実を混ぜて加工するため、傷んだ果実が原料に混ざると製品全体に広がります。りんご加工品が規制の対象になっているのは、このためです。
3. 加熱しても消えない理由
「ジュースは加熱殺菌しているから大丈夫では」と思われがちですが、加熱殺菌で死ぬのはカビや細菌であって、カビがすでに作った毒は残ります。東京都保健医療局は、カビ毒は100〜210℃・60分以内の調理では完全に分解できず、ゆでる・炒める・炊飯といった加熱でもほとんど減らないとしています。農林水産省も、かび毒は熱に強く通常の調理では分解しないと説明しています。ジュースの殺菌工程でも同じで、原料に入ったパツリンは製品に残ります。だから各国は、製品の検査と、原料の段階で傷んだ果実を除くことの両方で管理しています。
4. 基準値:日本・国際・米国は同じ「50」
農林水産省によると、コーデックス委員会は2003年に、りんご果汁および原料用りんご果汁のパツリン汚染防止・低減のための実施規範を採択するとともに、りんご果汁について50μg/kgの最大基準値を設定しました。日本でも同じ2003年に、食品衛生法に基づく清涼飲料水の成分規格として、りんごジュースおよび原料用りんご果汁について0.050ppm(50μg/kgに相当)の基準値が定められています。東京都保健医療局のカビ毒Q&Aにも、パツリン りんごジュース0.050ppm(平成15年)と記載されています。米国FDAのアクションレベルも50ppb(=50μg/kg)で、2025年のリコールはこの値を根拠に行われました。
人がどれだけ摂っても問題ないかの目安は、JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)が、動物試験の体重減少を指標に、暫定最大耐容一日摂取量(PMTDI)を0.4μg/kg体重と設定しています。農林水産省は、通常のりんご果汁のパツリン濃度は50μg/kg以下であり、子どもでも推定される最大暴露量は耐容量を下回るが、汚染果実の使用を避けて暴露をできるだけ低減する努力が必要とJECFAが勧告している、と説明しています。内閣府食品安全委員会も2003年に、PTDI 0.4μg/kg体重/日を妥当とする評価を公表しています。
5. 2025年 米国マルティネリ社のリコールで起きたこと
2025年4月、米国カリフォルニア州のS. Martinelli & Co.(マルティネリ社)は、10オンス(約296ml)のガラス瓶入りアップルジュース17万本以上を、パツリンの基準値超過の可能性を理由にリコールしました。対象は28州、賞味期限は2026年12月5日の製品で、FDAはClass II(健康への影響が一時的または医学的に回復可能な可能性がある区分)に分類しました。同社は、リコールに関連する健康被害の報告は受けていないとしています(米CBSニュース 2025年4月28日更新の報道による)。
この事例から分かることは3つです。1つ目は、製品化されたあとの検査で見つかること。加熱殺菌後の製品でも、原料に入っていれば残ります。2つ目は、基準値(50ppb)が「ここを超えたら回収」の実務ラインとして機能していること。3つ目は、健康被害の報告がない状態でも回収されること。パツリンの管理は、症状が出てからではなく、数値で行われています。
なお、日本国内で流通するりんごジュースには、輸入品を含めて食品衛生法の0.050ppmが適用されます。「日本のジュースは大丈夫か」という問いに対しては、基準と検査の仕組みがあること、そして基準は米国と同じ値であること、が答えになります。
6. 健康影響の考え方
農林水産省によると、動物試験では、短期毒性として消化管の充血・出血・潰瘍などの症状が、長期毒性として体重増加抑制などが認められています。また、欧米では、子どもは成人に比べて体重に対するりんごジュースの摂取量が多いため、子どもの健康保護の観点から重要視されているカビ毒です。
一方で、通常のりんご果汁の濃度(50μg/kg以下)であれば、子どもでも耐容量を下回るとされています。つまり、基準を満たした市販のジュースを普通に飲む範囲で、パツリンを心配する必要はありません。注意が必要なのは、傷んだりんごを家庭でジュースやすりおろしにする場合と、基準を超えた製品が流通した場合(リコールの対象)です。
「りんごジュース カビ」で調べる方の中には、開封後のジュースに浮いたカビを心配している方もいるはずです。それはパツリンとは別の話で、開封後に空気中の胞子が入って育ったカビです。カビが浮いている、においが変わったジュースは、加熱せず飲まずに捨ててください。
7. 家庭でできること4つ
- 傷んだりんごをジュース・すりおろし・ジャムに使わない。農林水産省は、見えるかびを取り除いても見えないかびが内部や表面に残る可能性が十分にあるとし、「もったいない」と思っても食べずに捨てるよう呼びかけています。傷・打ち身・カビの部分があるりんごは、その部分を大きく切り取っても、果汁にはパツリンが移っている可能性があります。離乳食のすりおろしりんごは特に、傷のない果実を使ってください。
- りんごは傷を付けずに冷蔵保存し、落としたものは早めに食べる。パツリンは保管中に作られます。ぶつけたりんごを長く置くほど、傷口からカビが増えます。
- 市販ジュースは開封後すぐ冷蔵し、早めに飲み切る。開封後のカビはパツリンとは別ですが、カビが浮いたもの、においが変わったものは飲みません。
- 小さな子どもには「量」より「品質」。体重あたりの摂取量が多いため、傷んだ果実を使わないことを最優先にしてください。基準を満たした市販品を普通に飲む範囲では、量を気にする必要はありません。
8. よくある質問
Q1. りんごの傷んだ部分を切り取れば、残りは食べられますか
そのまま食べる場合は、傷んだ部分を大きめに切り取れば一般には食べられています。ただし農林水産省は、見えるかびを取り除いても見えないかびが残る可能性があるとしています。カビが出ている(青緑や白の綿毛状)りんごは食べず、打ち身程度なら早めに食べる、という線引きが現実的です。ジュースやすりおろしにはしないでください。
Q2. 濃縮還元ジュースのほうがパツリンが多いのですか
濃縮還元かストレートかで基準は変わらず、どちらも製品として0.050ppmが適用されます。濃縮の工程でパツリンが除かれるわけではないため、原料の品質管理が同じように重要です。製法の違いで安全性を判断することはできません。
Q3. りんご以外の果物にもパツリンはありますか
農林水産省の整理では、パツリンはりんご果汁を汚染するカビ毒として扱われ、日本で基準値が設定されているのもりんごジュースと原料用りんご果汁です。ほかの果実についての公的な整理は確認できませんでした。ただし、傷んだ果実の中でカビが毒を作るという仕組みは同じなので、「傷んだ果実を加工に使わない」という原則は果物全般に当てはめてください。
Q4. パツリンを検査キットで調べられますか
家庭で簡単に測る方法はありません。パツリンの検査は分析機関で行うもので、製造者や行政が製品を検査しています。家庭では、原料(傷んだりんごを使わない)と保管(冷蔵・早めに)で管理するのが現実的です。
9. まとめ
パツリンは、傷ついた・落果したりんごにペニシリウム属などのカビが侵入し、保管中に作るカビ毒です。熱に強く、加熱殺菌では消えません。日本・コーデックス・米国FDAはいずれも50μg/kg(0.050ppm)を基準とし、2025年の米国リコールもこの値で行われました。基準を満たした市販品を普通に飲む範囲では、子どもでも耐容量を下回ります。家庭で管理すべきは自家製で、傷んだりんごをジュース・すりおろし・ジャムに使わないことが対策のすべてです。
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参考資料
- 農林水産省「いろいろなかび毒」(パツリン:産生経路、JECFA評価、コーデックス基準、日本の基準)、「食品のかび毒に関する情報」
- 東京都保健医療局「食品衛生の窓」カビ毒Q&A(規制値、加熱で分解しないこと)
- 農研機構 東北農業研究センター「リンゴ青かび病菌(Penicillium expansum)が果実で産生する恐れのあるかび毒」(2008年 成果情報)
- CBS News “Martinelli’s recalls 170,000 apple juice bottles over risk of toxic substance from fungi”(2025年4月)
※本記事は公的機関の公開情報と報道をもとに一般的な情報を提供するもので、個別の製品の安全性を保証するものではありません。リコール情報は各社・行政の発表を確認してください。症状に関する判断は医療機関にご相談ください。












