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カビと健康|アレルゲンと日和見感染の基礎、受診を考えるべきサイン

カビの話をしていると、必ず出てくるのが「体に悪いのか」という問いです。ここは慎重に扱う必要があります。症状の原因を判断できるのは医療機関であり、私たちが扱えるのは住まいの側の条件だけだからです。連載第8回は、その線引きをはっきりさせたうえで、公的機関が示している範囲の基礎を整理します。

要点は3つです。

  • カビと健康の関わりは、大きくアレルゲン・感染・カビ毒の3つに分かれます。
  • 感染は、主に免疫が低下している方で問題になるものとして説明されています。健康な方の日常と同じ土俵では語れません。
  • 住まい側でできることには、数値のある目安があります。まずはそこを測ることです。

1. 3つの関わり方

カビと健康の3つの関わり方を示した図
図1 アレルゲン・感染・カビ毒という3つの関わり方。出典:環境再生保全機構「ぜん息などの情報館」、国立健康危機管理研究機構 IASR、文部科学省「カビ対策マニュアル」/作図:MIST工法®カビバスターズ本部

① アレルゲンとして

独立行政法人環境再生保全機構は、ぜん息の原因として吸入アレルゲンが最も重要であるとし、カビもまた重要なアレルゲンであると説明しています。室内環境の項では、カビ(特にアスペルギルスとアルテルナリア)についてぜん息重症化との関係が明らかになっていると位置づけられています。

ここで第1回・第5回の内容とつながります。文部科学省「カビ対策マニュアル」実践編は、胞子は殺菌してもアレルゲンとしては残ることを指摘しています。「乾いたから」「もう死んでいるから」で片づけられない理由が、ここにあります。

② 感染(日和見感染)

国立健康危機管理研究機構の感染症情報提供サイト(IASR)は、アスペルギルス症について、環境中に広く存在するAspergillus属の糸状菌が原因であり、胞子や分生子の形で空気中に浮遊し、ヒトがこれらを吸入することによって感染が生じると説明しています。そのうえで、免疫不全患者(好中球減少症の患者や造血幹細胞移植を受けた患者など)において発症しやすいとし、侵襲性肺アスペルギルス症については予後が重篤であることに触れています。

この記述の読み方には注意が必要です。カビは環境中にもともと広く存在しているため、「胞子がある=すぐに感染する」という話ではありません。一方で、ご家族に免疫を抑える治療を受けている方がいる、療養中の方がいるといった場合は、住まいのカビ対策の優先度が上がる、という判断材料になります。

③ カビ毒

文部科学省のQ&Aは、防護用品の項でカビは生きている場合にはカビ毒をもつものもあり、死んでいてもアレルゲンとして問題になるため、呼吸用の保護具が必要だとしています。除去作業のときに素手・ノーマスクで扱わない、というのはここから来ています。

表1 3つの関わり方の整理

関わり方 公的機関の説明 特に関係する方 住まい側の意味
アレルゲン 吸入アレルゲンはぜん息の原因として最も重要。カビも重要なアレルゲン ぜん息やアレルギーのある方 量を減らすことに意味がある
感染(日和見) 環境中に広く存在し、吸入により感染が生じる。免疫不全患者で発症しやすい 免疫が低下している方 対策の優先度が上がる
カビ毒 生きている場合はカビ毒をもつものもある 作業する人 除去作業時の保護具

出典:独立行政法人環境再生保全機構「ぜん息などの情報館」、国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト(IASR 45(2)特集 真菌症)、文部科学省「カビ対策マニュアル」実践編・Q&Aをもとに作成。個別の症状について判断するものではありません。

2. 住まい側でできること:数値のある目安から

住まい側でできる対策の数値目安を示した図
図2 住まい側でできることのうち、数値や頻度が示されているもの。出典:厚生労働省「建築物環境衛生管理基準」、環境再生保全機構「ぜん息などの情報館」/作図:MIST工法®カビバスターズ本部

表2 対策と、その根拠

対策 内容 根拠
湿度を測る 相対湿度40〜70%、温度18〜28℃ 厚生労働省 建築物環境衛生管理基準(空気環境の調整)
加湿器を使わない カビ・ダニ対策では加湿器は厳禁とされている 環境再生保全機構(成人ぜん息 悪化因子の対策)
部屋干しを避ける 極端な乾燥状態のときを除いて、部屋干しはやめる 同上
エアコンを掃除する 年2回、使用開始直前に掃除し、その後は毎週掃除する 同上
見えるカビに対処する 十分に清掃するか、転居を検討するとされている 同上

出典:厚生労働省「建築物環境衛生管理基準」(相対湿度40〜70%・温度18〜28℃、令和4年4月1日に下限17℃から18℃に改正)、独立行政法人環境再生保全機構「悪化因子の対策 室内環境を見直しましょう」をもとに作成。

環境再生保全機構が挙げている項目は、いずれもぜん息の悪化因子への対策としてのものです。ただ、内容を見れば分かるとおり、やっていることは第2回から第4回で見た「水分条件を断つ」とほぼ同じです。健康面の配慮と、カビ対策としての合理性は、この点で重なります。

浴室・台所は湿気が多い場所として名指しされています。第7回で挙げた「空気が動かない×冷える面がある」場所と合わせて考えると、優先順位はかなり絞れます。

3. 受診を考えるときに、手元にあると役に立つもの

ここは慎重に書きます。症状からカビが原因かどうかを判断できるのは医療機関であり、この記事はその判断をするものではありません。そのうえで、受診する・しないを考える段階で、住まい側の情報が整理されていると、話が早く進むことがあります。

受診を考える前にそろえておく記録を示した図
図3 医療に相談する前に手元でそろえておくと役に立つ記録。出典:文部科学省「カビ対策マニュアル」Q&A、環境再生保全機構「ぜん息などの情報館」/作図:MIST工法®カビバスターズ本部
  • 症状が強くなる状況:時間帯、特定の部屋にいるとき、帰宅後や外出後で変わるか。
  • 住まいの温湿度の記録:どの部屋で、いつ、どのくらいだったか。
  • 見えているカビの記録:場所、範囲、いつから。写真があると確実です。文部科学省のマニュアルも、発生した日時・場所・状態の記述と写真の記録を勧めています。

体調面で不安がある場合、あるいはご家族に免疫を抑える治療を受けている方がいる場合は、住まいの対策と並行して、医療機関にご相談ください。順番を待つ必要はありません

4. 除去作業をご自身でされる場合の注意

  • 保護具:文部科学省のQ&Aは、薬剤を使用しない場合は防塵マスク、薬剤を使用する場合はその薬剤に対して防護効果のあるものを使用するとしています。手袋も同様です。
  • 噴霧器を使わない:胞子があると噴霧の勢いで吹き飛ばして汚染を拡大する原因になる、と明記されています。
  • 塩素系洗剤の扱い:アルカリ性に調整されており使える場所が限られること、脱色作用のあるガスが発生することがあり十分な換気が必要であることに触れられています。
  • 無理をしない:範囲が広い場合や、体調に不安がある場合は、ご自身で作業せずご相談ください。

まとめ

  • カビと健康の関わりは、アレルゲン・感染・カビ毒の3つに整理できる。
  • 感染は主に免疫が低下している方で問題になるものとして説明されている。
  • 殺菌してもアレルゲンとしては残るため、「死んでいるから安全」とは言えない。
  • 住まい側の目安は、湿度40〜70%・温度18〜28℃という数値から始まる。
  • 症状の判断は医療機関の領域。記録を持って相談するのが近道。

次回・第9回は「素材で変わるカビの入り方|木材・石膏ボード・壁紙・コンクリート・繊維」です。

ご家族の体調面の心配があってカビ対策を急ぎたい、という段階でのご相談も少なくありません。現地確認と必要に応じた検査で、どこにどれだけあるのかを先に把握することができます。

【参考・出典】独立行政法人環境再生保全機構「ぜん息などの情報館」(成人ぜん息 悪化因子の対策・室内環境を見直しましょう/小児ぜん息Q&A アレルゲン)、国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト IASR 45(2)特集 真菌症「アスペルギルス症:薬剤耐性問題の現状と対策」、文部科学省「カビ対策マニュアル」実践編・Q&A、厚生労働省「建築物環境衛生管理基準」(空気環境の調整)。本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療の助言ではありません。症状や体調に関するご心配は医療機関にご相談ください。費用や工法は現地調査のうえで判断します。