前回、カビの黒ずみに対する処理は「削る」「覆う」「分解する」の3つに整理できると書きました。今回はその一段下、それぞれの処理に何ができて、何ができないのかを見ていきます。どれかが常に正解というわけではありません。選び方を間違えると、費用をかけたのに数か月で元に戻る、ということが起こります。
結論|「落ちた」には3通りの中身がある
カビが落ちたように見える状態には、少なくとも3つの中身があります。表層ごと削り取った状態、上から覆って隠した状態、そして色素だけが抜けた状態です。このうち、菌糸や胞子が残っているかどうかは、見た目からは判断できません。

文部科学省のカビ対策マニュアル基礎編では、カビの増殖初期は肉眼で観察できないこと、そして色素や着色胞子の除去は困難で不可逆であることが説明されています。実践編には、胞子は殺菌してもアレルゲンとして残るという趣旨の記載もあります。つまり「白くなった=無くなった」とは言い切れないということです。
削る処理|厚い付着には有効、内部には届かない
研磨や高圧洗浄のように物理的に取り除く処理は、表面に厚く積もった付着物には有効です。短時間で見た目が大きく変わるという利点もあります。
一方で限界もはっきりしています。削れるのは表面までで、素材の内部に入った菌糸には届きません。そして削った分の素材は戻りません。木材、和紙、意匠のある仕上げ面、そして文化財のように「削れば価値が失われる対象」では、この処理は最初から選択肢から外れます。
覆う処理|順番を間違えると栄養を足すことになる
塗装やパテによる処理は、美観と防水効果を回復させるという明確な役割があります。当社のQ&Aでも、美観と防水効果の補修が必要ならば、除カビ・塗装・防カビ処理と行うのが本来の建物維持だと説明しています。
問題になるのは順番です。カビを残したまま塗り重ねると、塗膜そのものが新しい栄養源になり得ます。Q&Aでは、それは「カビに新たな栄養源を与えるようなもの」であり、対策は臭いものに蓋をするのではなく徹底的に除去することが大切だとしています。

分解して洗い流す処理|MIST工法®が選んでいる考え方
MIST工法®は3つ目に立っています。対象素材に合わせて水素イオン濃度を調整した専用剤を霧状に使い、菌糸と汚れを分解してから水で洗い流します。こすらないので素材の表面が残り、水圧も低いため削ってしまう心配がありません。
神社仏閣の施工ページでも説明していますが、汚れを分解する前にまず菌糸を退治すると、その汚れも分解しやすくなります。順番が効いてくる処理だということです。
ただし、この処理にもできないことがあります。水分条件そのものは工法では変えられません。結露や漏水が続いていれば、どれだけ丁寧に除カビしても条件は元に戻ります。
| 主な目的 | 向いている対象 | 残る課題 | |
|---|---|---|---|
| 削る | 厚い付着物の除去 | 削ってよい素材 | 内部の菌糸、素材の減り |
| 覆う | 美観と防水の回復 | 仕上げ直しが前提の面 | 下の状態が見えなくなる |
| 分解して洗い流す | 菌糸と汚れの除去 | 素材を残したい対象 | 水分条件は別に解決が必要 |
選ぶ前に確認したい3つの問い

現地調査でまず確認するのは、カビの色や量ではなく水の出所です。文部科学省のカビ対策マニュアル実践編には、除菌だけでは十分な処置とはならず、環境を改善しない限りカビ被害が繰り返されるという趣旨の記載があります。これは工法の優劣とは別の次元の話で、どの方法を選んでも共通します。
見積書を比較するときは、金額の前に「どの処理をするのか」「除去・塗装・防カビのどこまでが含まれるのか」「水分の原因についてどう説明されているか」を確認してください。同じ「カビ取り」という言葉でも、中身は3通りに分かれます。
次回予告
次回は、MIST工法®の「専用剤を都度調整する」という部分を掘り下げます。なぜ一種類の薬剤で全現場をまかなわないのか、現場で何を見て調整しているのかを説明します。
参考にした情報
- 株式会社せら「MIST工法®とは」 https://sera.jp/mist
- 株式会社せら「Q&A」 https://sera.jp/faq
- 株式会社せら「神社仏閣のカビ取り・復元処理」 https://sera.jp/shrines
- 文部科学省「カビ対策マニュアル 基礎編/実践編」
- 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準」












