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黒カビ・青カビ・白カビ|色から分かること、分からないこと

壁の隅の黒い点、パンの青い粉、押し入れの白い綿。カビのご相談で最初に出てくるのは、たいてい「色」の話です。ところが色は、カビの正体を半分しか教えてくれません。連載第5回は、色から分かること分からないことを、はっきり分けて整理します。

結論から言うと、こうなります。

  • カビの色は、ほとんどが胞子の色です。色が見えている=すでに胞子をつくる段階に入っている、というサインです。
  • 色は「どのグループか」のヒントにはなりますが、色だけで菌の種類は決まりません。同じ属でも黒・黄・緑と幅があります。
  • 色の濃さは、危険度でも、材料への入り込み具合でもありません。判断すべきは色ではなく、水の出所と、素材の内部まで入っているかどうかです。

1. そもそも、あの色は何の色なのか

東京都保健医療局「食品衛生の窓」は、カビが菌糸と胞子という成分で構成され、菌糸は肉眼に見えないほど細く生育すること、そして「カビの様々な色は、ほとんど胞子の色」であることを説明しています。胞子の大きさは2〜10マイクロメートル程度のものが多いとされます(1マイクロメートル=1000分の1ミリ)。

つまり、素材の表面に伸びている菌糸そのものは、多くの場合ほとんど無色に近いということです。そこに胞子がつくられ、その胞子が持つ色素が集まって、はじめて人の目に「黒い」「青い」と映ります。文部科学省「カビ対策マニュアル」基礎編も、増殖の初期段階は肉眼では見えないことを指摘しています。

ここから、実務的にかなり重い結論が出ます。色が見えた時点は、発生の始まりではなく途中経過だということです。目に見える点が1つでも出ているなら、その周囲には見えない菌糸が先行して広がっていると考えるほうが実態に近い。「まだ小さいから様子を見る」という判断が外れやすいのは、この時間差が理由です。

カビの色は胞子の色であることを示す図
図1 色の正体は胞子。菌糸が広がる段階では見えず、胞子ができてはじめて色として認識される。出典:東京都保健医療局「食品衛生の窓」、文部科学省「カビ対策マニュアル」基礎編/作図:MIST工法®カビバスターズ本部

2. 色から言えること:おおまかなグループの見当はつく

色にまったく意味がない、という話ではありません。発生場所と色の組み合わせは、「どのグループが優勢か」を推し量る材料になります。代表的な組み合わせを整理します。

表1 色と、よく対応づけられるカビのグループ

見た目の色 代表的なグループ 出やすい場所 色から言えないこと
黒い斑点状 クラドスポリウム(いわゆる黒カビ)など 浴室、窓まわり、壁の表面 種の特定、素材内部への浸透の有無
青〜青緑 ペニシリウム(アオカビ)など 食品、紙、乾燥した有機物 毒性の有無(種によって大きく異なる)
黄褐色・緑・黒など幅がある アスペルギルス(コウジカビ)など 穀類、ナッツ類、室内環境全般 色が同じでも別の属、別の属でも同じ色になりうる
白い綿状・粉状 菌糸が主体の段階、色素をつくらない種、ムコールなど 押し入れ、床下、木部 そもそもカビかどうか(結晶や他の付着物との区別)

出典:東京都保健医療局「食品衛生の窓」(カビとカビ毒Q&A/クラドスポリウム/アスペルギルス/ペニシリウムの各項)をもとに作成。属の判定は本来、顕微鏡観察や培養によります。

東京都保健医療局は、クラドスポリウムを「壁などの表面に黒い斑点状に見える汚れのようなカビ」と説明し、黒色や茶色の集落をつくること、アレルギーの原因として知られていることに触れています。一方でアスペルギルスについては、色が黒・黄褐色・黄・白・緑とひとつの属の中でも様々であると記載されています。ここが「色では決まらない」ことの分かりやすい実例です。

3. 色から分からないこと(ここが本題)

① 菌の種類は確定できない

同じ黒でも属が違い、同じ属でも色が違う。種まで特定するには、拭き取りや培養、顕微鏡観察といった検査の手続きが要ります。写真を見ただけで「これは○○菌です」と断定できるものではありません。

② 色の濃さ=深さではない

濃い黒でも表面の汚れ寄りのことがあり、薄い灰色でも石膏ボードや木部の内部まで菌糸が入っていることがあります。深さを左右するのは色ではなく素材の吸水性と、水が当たっていた時間です(素材別の話は連載第9回で扱います)。

③ 健康リスクの大小は色では測れない

「黒カビは危険、白カビは無害」といった単純な線引きはできません。文部科学省「カビ対策マニュアル」実践編は、胞子は殺菌してもアレルゲンとしては残ることを指摘しています。色が薄い・少ないことは、安全側の根拠にはなりません。体調面の不安がある場合は、カビの色から自己判断せず医療機関にご相談ください。

④ そもそもカビでない可能性もある

白い粉や白い筋は、コンクリートやモルタルから出る白い結晶、糸くず、他の付着物であることもあります。この見分けは第6回で詳しく扱います。

カビの色から分かることと分からないことの一覧図
図2 色から言えること/言えないことの整理。色はグループの見当をつける材料であり、種・深さ・リスクの判定材料ではない。出典:東京都保健医療局「食品衛生の窓」、文部科学省「カビ対策マニュアル」基礎編・実践編/作図:MIST工法®カビバスターズ本部

4. 「白くなった=取れた」ではない

色の話でいちばん実害が大きい誤解が、これです。塩素系の薬剤で壁を拭くと、黒い点は数分で消えます。しかし消えたのは色素であって、素材の内部に入り込んだ菌糸まで同時に無くなったとは限りません。文部科学省「カビ対策マニュアル」基礎編は、色素や着色胞子の除去が困難であること、そして材料が受けた変化は元に戻らない(不可逆である)ことを述べています。裏を返せば、見た目の白さは処置の成否を測る物差しにならないということです。

表2 「色が消えた」の3つの中身

状態 起きていること 見た目 その後
脱色(漂白) 色素だけが分解された 白くきれいに見える 条件が戻れば同じ場所に再び出やすい
表面の除去 表面の菌糸・胞子が取り除かれた 白くきれいに見える 水分条件を断てていなければ再発しうる
内部に残存 素材内部の菌糸が手つかず 白くきれいに見える(見分けがつかない) 同じ輪郭で再び色が出てくることが多い

出典:文部科学省「カビ対策マニュアル」基礎編・実践編の記述をもとに整理。実際の判定には現地確認が必要です。

3つとも、拭いた直後の見た目は同じです。区別できるのは時間の経過と、再発の輪郭です。前と同じ形・同じ位置に出るなら、断てていなかったのは水分条件か、内部に残った菌糸のどちらかだと考えるのが自然です。

漂白で色が抜けても内部に菌糸が残る様子を示した断面図
図3 色素が抜けても、素材内部の菌糸は残りうる。見た目の白さは処置の成否を示さない。出典:文部科学省「カビ対策マニュアル」基礎編/作図:MIST工法®カビバスターズ本部

5. では、色の代わりに何を見るのか

連載第2回から第4回で見てきたとおり、カビの発生を左右するのは水分・栄養・温度・酸素の4条件で、実際に断てるのは事実上水分です。色を見て一喜一憂する代わりに、次の3点を確認してください。

  1. 水の出所:結露か、漏水か、湿った空気の滞留か。露点と結露の考え方は第4回で扱いました。
  2. 広がりの輪郭:点在しているのか、面で広がっているのか。面で広がるなら、その面の温度か通気に原因がある可能性があります。
  3. 素材の種類:拭ける素材か、吸い込む素材か。石膏ボード・木材・繊維は内部に入りやすい側です。

厚生労働省の建築物環境衛生管理基準は、空気環境の調整として相対湿度40〜70%、温度18〜28℃を掲げています(令和4年4月1日に温度の下限が17℃から18℃に改正)。まずはこの範囲に収まっているかを、色ではなく数値で確認するほうが確実です。

まとめ

  • カビの色はほとんどが胞子の色。色が見えた時点で、菌糸は先に広がっていると考える。
  • 色は属のヒントにはなるが、種・深さ・リスクの判定材料にはならない。
  • 「白くなった」は脱色・表面除去・内部残存のどれでも起こる。見た目では区別できない。
  • 見るべきは色ではなく、水の出所・広がりの輪郭・素材の種類。

次回・第6回は「カビと間違えやすいもの|白い結晶・クモの糸・酵母・細菌との見分け方」です。白い付着物の正体を、順を追って切り分けます。

見えている色が表面だけの汚れなのか、素材の内部まで入っているのか。この切り分けは、現地での確認と必要に応じた検査で判断します。判断に迷う段階でご相談いただければ、削る・張り替えるといった大きな工事に進む前に、検討できる選択肢が増えます。

【参考・出典】東京都保健医療局「食品衛生の窓」カビとカビ毒Q&A/クラドスポリウム/アスペルギルス/ペニシリウム、文部科学省「カビ対策マニュアル」基礎編・実践編、厚生労働省「建築物環境衛生管理基準」(空気環境の調整)。本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の状況の診断ではありません。費用や工法は現地調査のうえで判断します。