「床下の木がカビている」と相談を受けて見に行くと、カビではなく木材腐朽菌だった、ということがよくあります。どちらも真菌(カビの仲間)ですが、やることが違います。カビは木の表面を汚し、腐朽菌は木そのものを分解して強度を奪います。
この記事では、カビと腐朽菌の違い、腐朽が進む条件、家のどこで起きやすいか、建築基準法と住宅性能表示制度が求めている防腐の考え方、そして自分で確認できる目安をまとめます。
結論
- 木材を弱らせるのはカビではなく腐朽菌です。ただし、カビが生える環境は腐朽菌が育つ環境でもあり、カビは「その先」の警告になります。
- 腐朽の条件は「木が濡れ続けること」です。乾いた木は腐りません。床下の湿気、雨漏り、水まわりの漏水、外壁内部の結露のどれかが、木を濡らし続けています。
- 建築基準法は、地面から1m以内の柱・筋かい・土台に防腐措置を求めています。この範囲が、家の中でいちばん腐りやすい場所だからです。
カビと腐朽菌は何が違うのか
どちらも真菌で、胞子で広がり、菌糸を伸ばして育ちます。違いは、何を食べるかです。
- カビ:木の表面にある糖分、ほこり、皮脂などの栄養を使います。木材そのものの成分(セルロース・リグニン)はほとんど分解しません。だから見た目は黒や緑に汚れても、木の強度はすぐには落ちません。
- 木材腐朽菌:木材の主成分であるセルロースやリグニンを分解して栄養にします。木が食べられるので、強度が落ちます。キノコの仲間が多く、進行すると木材の表面にキノコ状のものが出ることもあります。
ここで大切なのは、両者が育つ条件が重なっていることです。木材が湿り、空気が動かず、温度が保たれている場所は、カビにも腐朽菌にも都合がよい。木材にカビが出たら、腐朽が始まる前の段階にいると考えて、原因の水分を止めてください。
腐朽には3つのタイプがある
褐色腐朽
床下、水まわり、モルタル壁の内部、雨漏りしている場所など、多湿で通風・日照が悪い場所の木材に起きます。菌がセルロースを分解し、リグニンが残るため、腐った木は褐色になり、さいの目状にひび割れて、乾くと粉のように崩れます。住宅の被害で多いのはこのタイプで、針葉樹(スギ・ヒノキ・マツなど、住宅の構造材のほとんど)に起きやすいとされています。
白色腐朽
雨と日差しを繰り返し受ける屋外の木材に多いタイプです。菌が主にリグニンを分解するため、腐った木は白っぽく、繊維状にほぐれます。広葉樹に多い傾向があります。
軟腐朽
水分が非常に多い状態、たとえば土に接している木材や常に濡れている部材で起きます。表面から軟らかくなっていきます。
腐朽が進む条件
腐朽菌が育つには、水分・酸素・温度・栄養(木材そのもの)が必要です。このうち住まいで管理できるのは水分だけです。
木材は空気中の湿度に応じて水分を含んだり放したりします。日本の屋内では、木材の含水率はおおむね15%前後で落ち着きます。含水率が20%を超える状態が続くと腐朽菌が活動しやすくなるというのが、木材保存の分野で広く使われている目安です。つまり、普通に乾いている木は腐りません。腐っているなら、どこかから水が来ています。
水の来る経路は、次の4つのどれかです。
- 床下の湿気:地面からの水蒸気、換気口のふさがり、基礎の低さ(床下のカビ|原因の見分け方と、建築基準法が定める床下の基準)。
- 雨漏り:屋根、外壁のひび、サッシまわりのシーリング切れ、バルコニーの防水切れ。
- 水まわりの漏水:浴室・洗面・キッチンの配管、浴室の防水層の劣化。浴室に接する土台と柱は、家の中でもっとも腐りやすい部位のひとつです。
- 壁の中の結露:冬の室内の水蒸気が外壁内部で冷やされて結露する(内部結露)。断熱材が濡れ、柱と土台が濡れます(カビと結露)。
浸水した家では、この4つが一度に起きます。水害後の対応は水害によるカビ被害にまとめています。
建築基準法は何を求めているか
建築基準法施行令第49条は、木造の外壁内部等の防腐措置について定めています。要点は2つです。
- 木造の外壁のうち、鉄網モルタル塗など軸組が腐りやすい構造の部分の下地には、防水紙などを使うこと。
- 構造耐力上主要な柱・筋かい・土台のうち、地面から1m以内の部分には有効な防腐措置を講じ、必要に応じてシロアリなどの虫害を防ぐ措置を講じること。
「地面から1m以内」が指定されているのは、そこが雨の跳ね返り、地面からの湿気、床下の湿気を受けて、もっとも濡れやすいからです。加えて、施行令第22条は床の高さを地面から45cm以上とし、外壁の床下部分に換気孔を設けることを定めています。基礎を高くし、床下に風を通し、下から1mを守る。これが法律が示す最低限の防腐の考え方です。
住宅性能表示制度の「劣化対策等級」
建築基準法は最低基準です。それより上の水準として、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)にもとづく住宅性能表示制度に「劣化対策等級」があります。国土交通省の評価方法基準では、等級1は建築基準法に定める対策、等級2は住宅が限界状態に至るまでの期間が2世代以上、等級3は3世代以上となるための対策が求められます。
木造で等級3に求められる対策は、外壁の軸組等と土台の防腐・防蟻措置、浴室・脱衣室の防水措置、基礎の高さの確保、床下の防湿・換気措置、小屋裏の換気措置です。すべて「木を濡らさない」ための項目であることが分かります。中古住宅を検討するときや、リフォームで床下・浴室に手を入れるときの判断基準として使えます。
自分で確認できること
- 床下点検口から見る:土台や大引きの色が周囲より濃い、表面が波打っている、白い綿状・糸状のものが付いている。懐中電灯で照らし、写真を撮っておきます。
- ドライバーで押す:健全な木は先端が入りません。数mm入る、繊維がボロボロ崩れるなら、腐朽が進んでいます。
- 浴室まわり:浴室の外側の壁の下部、脱衣室の床が柔らかい、沈む。タイル目地の割れやシーリングの切れも確認します。
- 外壁:ひび、シーリングの切れ、雨だれの跡、バルコニー下の天井のシミ。
- 床下換気口:植木鉢・物置・コンクリートでふさがれていないか。
腐朽が見つかった場合、菌だけを殺しても解決しません。水の経路を止め、乾かし、強度を失った部材は建築士や工務店の判断で交換する。この順番です。カビの除去と同じで、原因を残したまま表面を処理しても再発します。
シロアリとの関係
腐朽菌が木材を分解し始めると、木は軟らかく湿った状態になります。これはシロアリにとって食べやすい木です。腐朽とシロアリは同じ「濡れた木」で起きるため、片方が見つかったら、もう片方も疑ってください。施行令第49条が防腐と防蟻を並べて求めているのも、このためです。
よくある質問
Q. 床下の木にカビが出ていました。すぐ腐りますか。
A. カビが出ただけでは、木の強度はまだ落ちていないことがほとんどです。ただし、カビが出るということは木が湿っている証拠で、その状態が続けば腐朽菌も育ちます。まず床下の湿気の原因(換気口のふさがり、水はけ、漏水)を確認してください。
Q. 防腐剤を塗れば直りますか。
A. 防腐剤は「これから腐りにくくする」ものです。すでに腐朽して強度が落ちた部材は戻りません。また、濡れ続ける環境では防腐剤の効果にも限界があります。水を止めることが先です。
Q. 築何年くらいから注意が必要ですか。
A. 年数より環境です。築5年でも浴室からの漏水で土台が腐ることはあり、築50年でも乾いていれば健全なことがあります。目安として、劣化対策等級3は3世代(おおむね75〜90年)を想定した対策を求めていますが、それも「濡らさない」前提での話です。
まとめ
木材を弱らせるのはカビではなく腐朽菌ですが、どちらも「木が濡れ続ける場所」で育ちます。木材にカビが出たら、腐朽の前段階と考えて水の経路を止めてください。建築基準法は地面から1m以内の柱・筋かい・土台の防腐措置と、床高45cm以上・床下換気を求めています。住宅性能表示の劣化対策等級は、それより上の「木を濡らさない」対策の一覧です。腐朽が見つかったら、菌を殺すより先に、水を止め、乾かし、強度を失った部材を交換する順番で進めてください。
参考資料(一次情報)
- 建築基準法施行令 第49条(外壁内部等の防腐措置等:軸組が腐りやすい構造の外壁下地には防水紙等を使用/構造耐力上主要な柱・筋かい・土台のうち地面から1m以内の部分に有効な防腐措置、必要に応じ防蟻措置)
- 建築基準法施行令 第22条(居室の床の高さは直下の地面から45cm以上、外壁の床下部分に壁の長さ5m以下ごとに面積300cm²以上の換気孔)
- 国土交通省 住宅性能表示制度 評価方法基準「劣化対策(構造躯体等の劣化の軽減)」(等級1=建築基準法の対策、等級2=2世代以上、等級3=3世代以上。木造は外壁の軸組等・土台の防腐防蟻、浴室・脱衣室の防水、基礎高さ、床下の防湿・換気、小屋裏の換気)
- 住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)












