社寺の天井画、欄間の彫刻、宝物殿の収蔵品。これらに黒い斑点が出たとき、一般的なカビ取りの手順はそのまま使えません。削れない、止められない、戻せないという3つの制約が最初から付いているからです。今回はその向き合い方を説明します。
結論|「落とす技術」より先に、「壊さない条件」が決まる
通常の建物であれば、汚れた面を削る、貼り替える、塗り直すという選択肢があります。文化財ではその選択肢がありません。表層そのものが守るべき対象だからです。
文部科学省の「カビ対策マニュアル」は、カビの色素や着色した胞子の除去は困難で、変色は元に戻らない場合があるとしています。やり直しがきかない以上、どこまでやるかを先に決め、そのうえで方法を選ぶという順番になります。

虫に効く方法が、カビにも効くとは限らない
文化財の保存では、虫菌害という言葉で虫とカビがまとめて語られることがあります。しかし対処法は別です。かつて広く使われた臭化メチルによるくん蒸は、オゾン層保護の観点から2005年に全廃されました。現在は、日常的な点検と環境管理を組み合わせる総合的有害生物管理(IPM)の考え方に移行しています。
同マニュアルでは、低酸素処理や低温処理は虫には有効でもカビには有効ではないとされています。カビは酸素がない環境では増殖できませんが、胞子は生き残り、酸素が戻れば発芽します。凍結でも同様です。

だから環境管理が中心になる
同マニュアルは、カビが全く生育できない水分活性の目安を0.6以下とし、それを保つために相対湿度を温度変化にかかわらず常に60%以下に保つことを求めています。収蔵環境では、25℃・相対湿度70%で数か月、90%では2日でカビが発生しうるとも記載されています。
| 項目 | 目安 | 出典 |
|---|---|---|
| カビが全く生育できない水分活性 | Aw 0.6以下 | 文部科学省 カビ対策マニュアル 基礎編 |
| 維持したい相対湿度 | 常に60%以下 | 同上 |
| 25℃・相対湿度70% | 数か月でカビが発生しうる | 同上 |
| 25℃・相対湿度90% | 2日でカビが発生しうる | 同上 |
| 棚の中央部の相対湿度 | 通路より約5%高くなる | 同上 |
| 温湿度の計測位置 | 床上120cm。隅は30cmと120cm | 同上 |
数値を挙げましたが、これは「機械を入れれば解決する」という意味ではありません。除湿機を回すと乾燥した胞子が飛散しやすくなるため、区画と空気の清浄化を併せて行う必要があると同マニュアルは注意しています。順番と組み合わせが重要です。
MIST工法®が社寺で使われる理由
当社の公開情報では、神社仏閣について、削らずこすらず、素材に合わせた水素イオン濃度の専用剤で復元できること、木材や和紙にも対応できること、汚れを分解する前に菌糸を退治すると汚れも分解しやすくなること、そして現地調査から防カビまでをワンストップで短納期に行うことを挙げています。
また当社のQ&Aでは、文化財の天井画にも対応した実績があり、必要に応じて文化庁の指示を仰ぐことも併せて依頼できると記載しています。所有者だけで判断しきれない部分を、手続きごと相談できる形です。

社寺や文化財では、行政手続きや保存修理の計画と関わることがあります。カビが出た時点で写真と記録を残し、勝手に洗浄や薬剤散布を行う前に、管理者と専門家に相談してください。
次回予告
次回は、素材別の対応を具体的に見ていきます。木材、和紙、コンクリート、ウレタン、金属で、何が変わるのかを説明します。
参考にした情報
- 株式会社せら「神社仏閣のカビ対策」 https://sera.jp/shrines
- 株式会社せら「Q&A」 https://sera.jp/faq
- 株式会社せら「MIST工法®とは」 https://sera.jp/mist
- 文部科学省「カビ対策マニュアル 基礎編/実践編」












