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ビールの穀類由来トキシンとは?|DON・ニバレノール・オクラトキシンA、日本とEUの基準、醸造所・輸入側の5つの管理

 

※この記事は2026年9月に、農林水産省の公開情報とEUの食品汚染物質規則(Commission Regulation (EU) 2023/915)をもとに内容を全面的に見直しました。個別の調査報告や年次の集計は本文に載せていません。

クラフトビールの醸造所が増え、麦芽や副原料を自分で仕入れる事業者が増えました。そこで問われるのが、原料の穀類に由来するかび毒(マイコトキシン)です。結論から言うと、ビールに関わるかび毒は主に3つ(デオキシニバレノール、ニバレノール、オクラトキシンA)で、日本の基準は小麦の1.0mg/kg(DON)だけ。大麦・麦芽・ビールに製品基準はなく、EUも麦芽とビールには個別の基準を置いていません。だから管理は、原料ロットの証明書と、貯蔵の湿度に寄ります。

この記事で分かること

  • ビールの原料に関わる3つのかび毒(DON・NIV・OTA)と産生カビ
  • 日本・コーデックス・EUの基準値と、「ビール・麦芽には基準がない」の意味
  • どこで入るのか(畑の赤かび病と、貯蔵中のカビ)
  • 醸造所・輸入側でできる5つの管理
  • 醸造所の壁・天井・冷蔵設備のカビと、原料管理の関係

1. 結論:3つのかび毒、基準は小麦のDONだけ、管理は原料証明と貯蔵湿度

要点 内容 根拠
関わるかび毒は主に3つ DON・NIV(畑でフザリウム属=赤かび病)、OTA(貯蔵中にペニシリウム属・アスペルギルス属) 農林水産省「いろいろなかび毒」、OTAリスクプロファイル
日本の基準は小麦(玄麦)のDON 1.0mg/kgのみ 大麦・麦芽・ビールに製品基準はない。NIV・OTAも基準なし 農林水産省「いろいろなかび毒」
EUも麦芽・ビールには個別基準を置いていない 未加工穀類はDON 1,250μg/kg・OTA 5.0μg/kg。麦芽・ビールの行はない Commission Regulation (EU) 2023/915 Annex I

2. 3つのかび毒と産生カビ

図1 DON・NIVは畑のフザリウム、OTAは貯蔵中のペニシリウム・アスペルギルス。日本の基準は小麦のDONだけ

デオキシニバレノール(DON)は、フザリウム属(アカカビ)が産生し、麦類などの穀類を汚染します。農林水産省は毒性として免疫毒性・血液毒性を挙げ、日本の基準は小麦(玄麦)1.0mg/kg、コーデックスは加工向け穀類2mg/kg・穀類製品1mg/kgとしています。

ニバレノール(NIV)も同じフザリウム属が産生し、日本ではDONとの同時汚染が一般的だと農林水産省は説明しています。トリコテセン系のかび毒で、日本にもコーデックスにも基準はありません。

オクラトキシンA(OTA)は、Penicillium verrucosum、Aspergillus ochraceus、A. carbonarius、A. niger などが産生します。農林水産省のリスクプロファイルは汚染されやすい食品として穀類とその製品、コーヒー、干しぶどう、ワイン、ビールなどを挙げ、多くの動物で腎毒性、IARCグループ2B、JECFAのPTWIは100ng/kg体重としています。日本に基準はなく、コーデックスは小麦・大麦・ライ麦5μg/kgです。

3. 基準値の整理

かび毒 日本 コーデックス EU(2023/915)
DON 小麦(玄麦)1.0mg/kg。大麦・麦芽・ビールは基準なし 加工向け穀類2mg/kg、穀類製品1mg/kg 未加工穀類1,250μg/kg、小麦粉750、パン500、パスタ750μg/kg。麦芽・ビールの行はない
NIV 基準なし 基準なし
OTA 基準なし 小麦・大麦・ライ麦5μg/kg 未加工穀類5.0μg/kg、焙煎コーヒー3.0、ワイン2.0μg/kg。麦芽・ビールの行はない

「ビール・麦芽に基準がない」は、「管理しなくてよい」という意味ではありません。基準がないからこそ、原料の段階で数字を持っておく(ロットごとの検査証明書)ことが、事業者が自分で説明できる唯一の材料になります。農林水産省は、かび毒は通常の加工・調理で十分に減少しないものがあるとしており、煮沸や発酵で消えることを前提にできません。

4. どこで入るのか:畑と貯蔵

図2 DON・NIVは収穫時点で決まり、OTAは貯蔵で増える。産生カビが違う

DONとNIVは畑で決まります。出穂から登熟期に雨が続くと、フザリウム属が穂に感染し(赤かび病)、収穫時点で麦の中にかび毒があります。これは醸造所側では減らせません。産地・収穫年・検査結果で判断するしかない領域です。

OTAは貯蔵で増えます。水分が高いまま貯蔵された麦や麦芽で、ペニシリウム属やアスペルギルス属が育ち、OTAをつくります。東京都保健医療局のQ&Aにあるとおり、カビは湿度70%以上・温度10〜30℃で発生しやすく、日本の梅雨から秋の倉庫はこの条件に入ります。ここは醸造所側で管理できる領域です。

5. 醸造所・輸入側でできる5つ

図3 畑の分は証明書で、貯蔵の分は湿度で管理する
  1. 麦芽ロットの検査証明書を保管する。DON・OTAの検査結果を、ロット番号・産地・収穫年と紐づけます。輸入麦芽は供給元の分析証明書(COA)を求めます。
  2. 麦芽・副原料の保管湿度を管理する。開封後は密閉し、倉庫に湿度計を置いて相対湿度60%以下(文部科学省のカビ対策の目安)を確認します。床に直置きせず、壁から離します。
  3. 貯蔵タンク・配管・冷蔵庫まわりの結露を見る。醸造所は湯気と冷却で湿度が高く、壁・天井・冷蔵庫のパッキンにカビが出やすい環境です。文部科学省のマニュアルは、空調機の冷却部分は結露して除湿する機構で元来カビが繁殖しやすいとしています。設備のカビは原料保管環境の湿度のサインでもあります。
  4. 記録する。入荷日・ロット・保管温湿度。食品衛生法施行規則 別表第17は、必要に応じた温湿度管理と、計器類の点検・記録を求めています。
  5. 加熱で消えない前提で判断する。煮沸工程で減ることを期待せず、疑わしいロットは使わない。

6. よくある質問

Q. 市販のビールにかび毒は含まれていますか。

農林水産省はオクラトキシンAの汚染されやすい食品にビールを挙げていますが、含有量や健康影響を当社が評価する立場にはありません。日本に製品基準はなく、農林水産省と食品安全委員会が実態調査とリスク評価を公表しています。数字はそれらの一次資料を確認してください。

Q. 発酵や煮沸でかび毒は減りますか。

農林水産省は、かび毒は通常の加工・調理で十分に減少しないものがあるとしています。工程による変化を示す研究はありますが、事業者が「減るから大丈夫」と説明できる公的な基準はありません。原料段階の数字を持つことが本体です。

Q. 醸造所の天井や壁にカビが出ています。

原料のかび毒とは別の問題ですが、湿度が高い証拠で、原料の貯蔵条件としても良くありません。別表第17は内壁・天井・床の清潔維持と換気・温湿度管理を求めています。営業を止めずに処置する順番は飲食店のカビ取りと同じです。

Q. 麦芽を冷蔵庫に入れれば防げますか。

低温では増殖が止まりますが、出し入れの結露で湿気が入ります。密閉して湿気を入れないことのほうが効きます。文部科学省のマニュアルは、凍結でも胞子は生存するとしています。

7. まとめ

ビールの原料に関わるかび毒はDON・NIV・OTAの3つ。DON・NIVは畑の赤かび病で収穫時点で決まり、OTAは貯蔵で増える。日本の基準は小麦のDON 1.0mg/kgだけで、大麦・麦芽・ビールに製品基準はなく、EUも麦芽・ビールに個別基準を置いていない。だから管理は、畑の分を証明書で、貯蔵の分を湿度と記録で。そして加熱で消えない前提です。

醸造所・倉庫のカビは、操業を止めずに

醸造所の壁・天井・冷蔵設備のカビは、原料の保管環境の湿度が高いサインです。MIST工法®カビバスターズ本部では、浮遊カビの量と種類を調べる検査と、操業を止めない工程での処置を行っています。

参考資料

  • 農林水産省「いろいろなかび毒」(DON・NIV=フザリウム属/麦類/DON 日本 小麦(玄麦)1.0mg/kg・コーデックス2mg/kg・1mg/kg/NIV 基準なし/OTA=アスペルギルス属・ペニシリウム属/日本 基準なし/コーデックス5μg/kg)
  • 農林水産省「食品安全に関するリスクプロファイルシート オクラトキシンA」(2014年:P. verrucosum・A. ochraceus・A. carbonarius・A. niger/穀類・コーヒー・干しぶどう・ワイン・ビール等/腎毒性/IARC 2B/JECFA PTWI 100ng/kg bw)
  • 農林水産省「かびとかび毒についての基礎的な情報」(通常の加工・調理で十分に減少しない)
  • Commission Regulation (EU) 2023/915, Annex I(DON 未加工穀類1,250・小麦粉750・パン500・パスタ750μg/kg/OTA 未加工穀類5.0μg/kg ほか。麦芽・ビールの個別基準は記載なし)
  • 食品衛生法施行規則 別表第17、文部科学省「カビ対策マニュアル」(60%以下/空調機は結露する機構/凍結でも胞子は生存)、東京都保健医療局「食品衛生の窓」

※本記事は公的機関・EU規則の公開情報をもとに一般的な情報を提供するもので、個別の製品の安全性や法令適合を判断するものではありません。基準値は改正されることがあるため、最新の規則本文と所管官庁の情報を確認してください。当社は食品衛生の検査機関・医療機関ではありません。