MIST工法®の説明でいちばん誤解されやすいのが「専用剤」という言葉です。特別な液体を一本持っていて、それを吹けば終わる、というイメージを持たれることがあります。実際は逆で、現場ごとに条件を確認して調整することが前提になっています。今回はその中身を説明します。
結論|専用剤は「製品名」ではなく「合わせ方」
当社のサイトでは、他社の工法とMIST工法®の違いとして、カビの繁殖状況や対象物の状況を重視し、専用剤の調整が都度されていることを挙げています。つまり専用剤とは、決まった一本のことではなく、対象素材に合わせて条件をそろえるという運用そのものを指しています。
具体的に何を合わせるのかというと、代表的なのが水素イオン濃度(pH)です。対象素材に合わせた水素イオン濃度の専用剤で処理するため、素材にやさしく傷めないというのが、当社が説明している設計の考え方です。
なぜ現場ごとに変える必要があるのか
理由は単純で、素材が違うからです。木材とコンクリートでは、水を含んだときの挙動も、表面の性質も違います。和紙や意匠面のように、少しの負担でも戻せない対象もあります。同じ強さで一律に処理すれば、ある現場では足りず、別の現場では過剰になります。

もうひとつの理由は、カビ側の状態が一定でないことです。文部科学省のカビ対策マニュアル基礎編では、カビが生育できる最低の水分活性は種類によって異なり、好乾性のカビでは0.65、青カビでは0.83、黒麹カビでは0.88、クモノスカビでは0.94といった値が示されています。同じ「カビ」でも条件が違うということは、現場によって置かれている状況も違うということです。
一種類でまかなう場合との違い

当社のQ&Aでは、従来の処理剤には酸性液が多く用いられてきたのに対し、MIST工法®の使用剤はアルカリ性で、壁面などと同じ水素イオン濃度であるため、素材を傷めたり変質を起こしたりする心配がないと説明しています。加えて水圧も低いため、洗浄で素材を削ってしまう心配もないとしています。
ここで注意していただきたいのは、酸性の薬剤が一律に悪いという話ではないことです。対象が何かによって適切な条件は変わります。重要なのは「その素材に合わせているか」であって、薬剤の種類そのものではありません。
| 調整する項目 | 何に合わせるか | そろえないと起きやすいこと |
|---|---|---|
| 水素イオン濃度(pH) | 対象素材の性質 | 変色、変質、素材側の負担 |
| 浸透のさせ方 | カビの入り込み方 | 表面だけ落ちて内部に残る |
| 工程の繰り返し回数 | 素材の状況と汚れの層 | 一度で終わらせて色素が残る |
| 洗い流しの水圧 | 素材の硬さ・仕上げ | 削れ、目地の傷み |
工程の順番にも調整が効く

神社仏閣の施工ページで説明しているとおり、汚れを分解する前に菌糸を退治すると、その汚れも分解しやすくなります。順番を変えるだけで必要な力が変わるため、素材への負担も下げられます。木材の黒ずみについても、Q&Aで、表面を覆っている汚れを分解し、木材の深くまで専用剤を浸透させ、素材の状況をみながらこの工程を繰り返すと説明しています。
「一度で終わらせない」ことは、手間をかけていると同時に、素材への負担を分散させる方法でもあります。見積や工期の説明を受けるときは、工程が何回に分かれているかを聞いてみてください。
調整しても変えられないもの
最後に前提を確認します。薬剤の調整で変えられるのは処理の側だけで、建物側の水分条件は変わりません。厚生労働省の建築物環境衛生管理基準は相対湿度40〜70%、温度18〜28℃を求めていますが、この範囲はカビが増えられる範囲とも重なります。処理のあとに環境をどうするかは、必ず別に考える必要があります。
次回予告
次回は、この「水素イオン濃度を合わせる」という部分だけを取り出して、アルカリ性と酸性の違いが素材にとって何を意味するのかを説明します。
参考にした情報
- 株式会社せら「MIST工法®とは」 https://sera.jp/mist
- 株式会社せら「Q&A」 https://sera.jp/faq
- 株式会社せら「神社仏閣のカビ取り・復元処理」 https://sera.jp/shrines
- 文部科学省「カビ対策マニュアル 基礎編」(生育に必要な最低水分活性)
- 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準」












