「壁に白い粉のようなものが出ている」「押し入れの隅に白い糸が張っている」。カビのご相談で、黒い斑点の次に多いのが白い付着物です。そして白いものは、カビでないことが少なくありません。連載第6回は、カビと間違えやすいものを、順を追って切り分ける方法を整理します。
先に要点を3つ。
- 白い付着物は、ルーペで見る→水に入れるの2手で、かなりの割合が切り分けられます。
- 水に入れて速やかに沈殿・溶解すれば無機結晶。コンクリートやモルタルから出る白い析出物(白華)がこれに当たります。
- 溶けずに残るならカビの可能性があり、そこから先は培養や検査の領域です。カビの培養は設備要件があり、施設外で行うものではありません。
1. なぜ、白いものは見分けにくいのか
第5回で見たとおり、カビの色はほとんどが胞子の色です。裏を返せば、まだ胞子をつくっていない菌糸だけの段階では、白っぽく、あるいはほとんど無色に見えます。文部科学省「カビ対策マニュアル」基礎編は、カビなどの増殖初期には通常は肉眼では全く観察できないと述べています。
一方で、白く見えるものはカビ以外にもたくさんあります。コンクリートから出る結晶、クモの糸、布や紙から出た繊維、酵母の膜。どれも「白い」という一点では同じです。同マニュアルのQ&Aでも、「資料に白っぽい斑点があります。カビなのか染みなのか区別できません」という問いに対し、まずは虫眼鏡で観察することが答えとして示されています。
2. 切り分けの3ステップ

STEP 1 ルーペで観察する
文部科学省の同マニュアルは、カビの発見に役立つ器具として懐中電灯(LED光源がベター)、虫眼鏡、マスク、デジタルカメラを挙げています。また基礎編では、着生している菌糸や胞子は30倍程度の手持ち小型顕微鏡あるいはルーペで十分に観察した後に採取するとされています。
この段階で見るのは、糸状か・粉状か、一本一本が長く連続しているか、点が集まって面をつくっているか。クモの糸や繊維は「長く連続して、端がどこかにつながっている」ことが多く、カビの菌糸は一点から放射状に広がる傾向があります。
STEP 2 少量を水に入れる
いちばん実用的な判定がこれです。基礎編3-3「カビであるのかの判定法」は、カビと蜘蛛の糸、糸状や針状の無機結晶、繊維などの区別について、菌糸と思われるものをピンセットで採取して水に入れ、速やかに沈殿あるいは溶解すれば無機結晶であると判定できるとしています。逆に、沈殿も溶解もしないものについては、培養法やATP(アデノシン三リン酸)の確認に進みます。
白い析出物の代表が、コンクリートの白華(エフロレッセンス)です。農林水産省の手引きの参考資料では、コンクリート中の水分が表面で蒸発し、可溶成分(カルシウム)が乾燥して生成されるもので、一般に白い析出物が付着すると説明されています。同資料は、白華そのものがコンクリート品質に悪影響を及ぼすわけではない一方、その発生は水の移動に関連している点に注意が必要だとしています。カビ対策の観点でも、ここは重要です。白華が出ているということは、そこに水の通り道があるということだからです。
STEP 3 溶けないなら、検査の領域へ
水に入れても残るなら、カビの可能性があります。基礎編は判定法として培養法と細胞内ATP量の測定を挙げていますが、同時にオートクレーブ、安全キャビネット、廃棄物処理の契約など、カビを安全に取り扱うことのできる施設以外では培養をしてはならないと明記しています。自宅や現場で培地を使って増やす、という発想は避けてください。
3. 白い付着物の、4つの正体
表1 カビ・無機結晶・繊維・酵母の見分け
| 正体 | 見た目 | 水に入れると | 出やすい場所 |
|---|---|---|---|
| カビ(菌糸) | 糸状に放射状に広がる。胞子ができると色がつく | 沈殿も溶解もしない | 湿った木部、押し入れ、水まわり |
| 無機結晶(白華など) | 粉状・針状。面に沿ってにじみ出る | 速やかに沈殿・溶解する | コンクリート、モルタル、タイル目地 |
| クモの糸・繊維 | 一本が長く連続し、端がつながっている | 溶けない(形は保たれる) | 天井の隅、家具の裏、収納の奥 |
| 酵母(産膜酵母など) | 液面では膜状、固形物では乳白色で円形・丘状 | —(対象外) | 漬物汁など液体の表面、食品まわり |
出典:文部科学省「カビ対策マニュアル」基礎編3-3、農林水産省「農業水利施設の機能保全の手引き」参考資料(エフロレッセンス)、東京都保健医療局「食品衛生の窓」ピキア(ハンゼヌラ)の各記述をもとに作成。

酵母についても触れておきます。東京都保健医療局は、代表的な産膜酵母であるピキア(ハンゼヌラ)について、漬物汁等の液体表面では膜状に発育し、寒天培地や一部の固形食品では乳白色の円形・丘状の集落を形成すると説明しています。食品まわりで見る白い膜は、カビではなくこちらであることがあります。
細菌も同様です。基礎編は、細菌や酵母は培養液中や寒天平板上で大量に増殖させた場合には濁りやコロニーとして観察されるが、個々の細胞の微細な形状は肉眼では全く見えないとしています。排水まわりのぬめりのように、面として広がるものは、糸状に見えないという点でカビと区別できることがあります。
4. カビだった場合に、次に分かれる2つの問い

表2 生死の判定に使われる方法
| 方法 | 分かること | 所要時間の目安 | 限界・注意 |
|---|---|---|---|
| 培養法 | 培地で発育するかどうか | 1〜7日間の培養 | 培養できない状態(VNC)の菌糸・胞子には適用できない。施設要件あり |
| 細胞内ATP測定 | 生きている菌糸・胞子の有無 | 約30分程度 | 外部に付着したATPを分解する前処理が必要 |
| 目視・ルーペ観察 | 菌糸や胞子の着生の様子 | その場 | 生きているかどうかまでは分からない |
出典:文部科学省「カビ対策マニュアル」基礎編3-2・3-3の記述をもとに整理。
そして、忘れやすい点がもう一つ。同マニュアルのQ&Aは、防護用品についてカビは生きている場合にはカビ毒をもつものもあり、死んでいてもアレルゲンとして問題になるため、呼吸用の保護具が必要だとしています。「乾いているから」「もう死んでいるだろうから」は、素手で触ってよい理由にはなりません。
5. 現場で気をつけたいこと
- スプレーで吹き飛ばさない:文部科学省のQ&Aは、噴霧器について「胞子があると噴霧の勢いで吹き飛ばして汚染を拡大する原因となる」と指摘しています。まず観察、が順序です。
- 塩素系の住宅用洗剤は場所を選ぶ:同Q&Aは、塩素系の住宅用洗剤はアルカリ性に調整されており使える場所が限られること、脱色作用のあるガスが発生することがあり十分な換気が必要であることに触れています。
- 写真と日付を残す:発生した日時・場所・状態を記録し、写真を撮っておくことが勧められています。再発したときに「同じ場所か」を判断できるのは、この記録だけです。
6. 白かった場合の、その後の考え方
水に入れて溶けた=無機結晶だった、という結果でも、そこで話が終わるわけではありません。白華は水がその面を通ってきた証拠でもあります。第4回で扱った結露、あるいは漏水が背後にあるなら、いずれカビの条件も整います。「カビではなかった」は「対処が要らない」と同義ではない、というのがこの回のいちばん実務的な結論です。
まとめ
- 白い付着物は、ルーペで観察→水に入れる、の2手でかなり切り分けられる。
- 速やかに沈殿・溶解すれば無機結晶。溶けずに残ればカビの可能性がある。
- 培養は施設要件があり、現場や自宅で行うものではない。
- 死んでいてもアレルゲンになるため、素手で触らず保護具を使う。
- 結晶だった場合も、水の通り道がある事実は残る。
次回・第7回は「カビ臭の正体|『臭うのに見当たらない』が起きる仕組み」です。目で見つからないのに臭う、というご相談の背景を扱います。
白い付着物の正体が判断しづらい、あるいは水の出所が特定できないという段階でも、現地確認と必要に応じた検査で切り分けができます。削る・張り替えるといった判断に進む前の段階でご相談ください。
【参考・出典】文部科学省「カビ対策マニュアル」基礎編1-1・3-1〜3-3、同Q&A、農林水産省「農業水利施設の機能保全の手引き」参考資料(コンクリートの劣化・エフロレッセンス)、東京都保健医療局「食品衛生の窓」ピキア(ハンゼヌラ)。本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の状況の診断ではありません。費用や工法は現地調査のうえで判断します。












