前回、MIST工法®の専用剤は「対象素材に合わせた水素イオン濃度」で調整すると書きました。ただ、水素イオン濃度と言われてもピンと来ない方が多いと思います。今回はこの一点だけを取り出して、素材にとって何を意味するのかを説明します。ご自分でカビ取りをされる方にも関わる話です。
結論|pHは「強さ」ではなく「相性」の話
水素イオン濃度、いわゆるpHは、その液体が酸性かアルカリ性かを0〜14の数字で表したものです。7が中性で、小さいほど酸性、大きいほどアルカリ性になります。目盛りは対数なので、1違えば水素イオン濃度は10倍変わります。
誤解が起きやすいのは、pHが「強さの目盛り」に見えてしまうことです。実際には、カビに対してどう働くかと、素材にどれだけ負担をかけるかは別々に決まります。相性を外したまま強さだけを上げれば、カビより先に素材が反応します。

MIST工法®がアルカリ性側で設計されている理由
当社のQ&Aでは、従来の処理剤には酸性液が多く用いられてきたのに対し、MIST工法®で使用する薬剤はアルカリ性液であり、壁面などと同じ水素イオン濃度であると説明しています。だから素材を傷めたり変質を起こしたりする心配がない、という組み立てです。
ここで大事なのは「アルカリ性だから優れている」ではなく「対象と同じ側にそろえている」という点です。壁面の性質と大きく離れた液体を使えば、それだけ素材側に負担がかかります。合わせるという発想があるから、こすらず削らずという工程が成り立ちます。逆に言えば、素材が変われば合わせ先も変わります。

| 観点 | 確認すること | 外したときに起きやすいこと |
|---|---|---|
| pHの向き | 対象素材の性質と同じ側か | 変色、白化、艶の変化 |
| 作用のさせ方 | 浸透させるのか、表面で反応させるのか | 表面だけ色が抜けて内部に残る |
| 洗い流し | 水で流せるか、残留しないか | 薬剤が残り、後の仕上げに影響する |
| 安全性の裏づけ | どの試験を受けているか | 人がいる場所で使えない |
家庭用の塩素系洗剤との付き合い方
ご自宅で使われることの多い塩素系の住宅用洗剤についても触れておきます。文部科学省のカビ対策マニュアルでは、塩素系住宅用洗剤はアルカリ性で使える場所が限られること、脱色やガスに注意が必要であることが示されています。また、噴霧器を使うと胞子を吹き飛ばして汚染を広げるおそれがあるとされています。

もうひとつ押さえておきたいのは、色が抜けることと、カビが無くなることが別だという点です。同マニュアル基礎編では色素や着色胞子の除去は困難で不可逆であるとされ、実践編では胞子は殺菌してもアレルゲンとして残るという趣旨が示されています。漂白後に「白くなったから終わり」と判断しないことが大切です。
薬剤どうしを混ぜない、狭い場所で長時間使わない、換気をする、というのは家庭用の洗剤でも共通の注意点です。判断に迷う素材(無垢の木材、和紙、塗装面、天然石など)では、まず目立たない場所で試すか、専門業者にご相談ください。
「素材に合わせる」が効いてくる場面
この考え方がいちばん効くのは、削れない対象です。神社仏閣や文化財のように、削れば価値が戻らないものでは、素材に合わせた処理でなければそもそも手が出せません。当社が天井画のような対象まで扱えるのは、pHを合わせて、こすらずに処理するという前提があるからです。
住宅でも同じで、無垢の木部や、意匠のある仕上げ面では「落ちたけれど色が変わった」が起こりやすくなります。仕上がりを大事にしたい場所ほど、薬剤の強さより相性を確認する意味があります。
次回予告
次回は、洗い流しの部分に注目します。高圧洗浄で落とす方法とMIST工法®の低い水圧での洗い流しは何が違い、水圧を上げると素材に何が起きるのかを説明します。
参考にした情報
- 株式会社せら「Q&A」 https://sera.jp/faq
- 株式会社せら「MIST工法®とは」 https://sera.jp/mist
- 文部科学省「カビ対策マニュアル 実践編/Q&A」(塩素系住宅用洗剤の注意、噴霧器による汚染拡大)
- 文部科学省「カビ対策マニュアル 基礎編」(色素・着色胞子の除去は困難で不可逆)












