「部屋に入るとカビ臭い。でも、探しても見当たらない」。これは、カビのご相談の中でもかなり多いパターンです。そして厄介なことに、臭っている時点で、すでにそれなりの量がある可能性が高い。連載第7回は、カビ臭が何を知らせているのか、そしてなぜ発生源が見つからないのかを整理します。
要点は3つです。
- 点在する斑点程度では、あまり臭いません。臭うのは、活発に繁殖している段階です。
- 見当たらないのは「無い」からではなく、目に触れない側にあることが多い。壁の裏、床下、空調内部、家具の裏。
- 消臭・換気・発生源の処置は、まったく別のことです。においが消えても、発生源はそのままです。
1. 臭うということは、量があるということ
文部科学省「カビ対策マニュアル」実践編は、目視観察の項でこう述べています。資料に直径3〜5ミリメートル程度の斑点があらわれるとカビの発生を疑うことになるが、カビが活発に繁殖しているときには湿っぽさとともに特有の臭いがあるものの、斑点状に発生している程度だと、あまり臭いを感じないと。
この一文は、逆向きに読むと重要な意味を持ちます。臭いを感じているなら、点が数個という段階はすでに過ぎているということです。同マニュアルのQ&Aも、カビ独特のカビ臭さを「カビが発生していることを知らせる重要な手がかりの一つ」と位置づけています。

2. わずかな量でも、においは届く
においの物質は、ごく低い濃度でも人が感知できます。参考になるのが、水道水の水質基準です。環境省が定める水質基準項目(52項目)には、かび臭の原因物質であるジェオスミンと2-メチルイソボルネオールが含まれ、いずれも基準値は0.00001mg/L以下とされています。1リットルあたり100億分の1グラムの桁です。
水道水の話をそのまま室内空気に当てはめることはできませんが、かび臭の物質が、これほど低い濃度で問題になるほど感知されやすいという点は共通します。だからこそ、発生源から離れた場所でも臭う。においがする場所と、カビがある場所は、一致しないことのほうが多いのです。
3. 「見当たらない」ときに疑う5か所

表1 場所ごとの「臭い方」と確認の入り口
| 疑う場所 | 臭いの出方の傾向 | 背景にある条件 | 確認の入り口 |
|---|---|---|---|
| 壁の裏・押し入れの奥 | 扉を開けた瞬間に強い | 外壁側の面は冷えやすく結露しやすい | 壁面と室温の温度差、収納内の湿度を測る |
| 床下・床の断熱層 | 床に近いほど強い | 地面からの湿気と、風の通りにくさ | 床下点検口からの目視、床付近の湿度 |
| 空調機の内部 | 運転を始めた直後に強い | 冷却して除湿する機構で、もともと結露しやすい | フィルターと吹き出し口の汚れを見る |
| 家具の裏・棚の最下段 | 家具を動かすと強くなる | 壁から離れていないと空気が動かない | 壁から10cm程度離して様子を見る |
| 排水まわり・水回りの床 | 水を使った後に強い | 漏れや跳ね水が続いている場合がある | 配管まわりの濡れ跡、床材の変色 |
出典:文部科学省「カビ対策マニュアル」Q&A(空調機内の冷却ファンは結露させて除湿する機構であり元来カビが繁殖しやすい/壁から10センチメートル離すと自然対流による風が回る/床上20センチメートルくらいまでは湿気たまり/最下段は高さ75〜120センチメートルあたりに比べ相対湿度が5パーセント以上高い)をもとに作成。
マニュアルは、施設内でカビが特に生えやすい場所として、風が通りにくい隅、窓の近傍、ガラス面近くの結露を挙げています。住宅でも考え方は同じで、「空気が動かない」「冷える面がある」の2つが重なる場所が候補になります。
4. においの手がかりを、記録に変える
探すときのコツは、いつ強くなるかを記録することです。文部科学省のマニュアルも、カビ被害の記録について「発生した日時、場所、状態の記述をしておくとよい」「写真を撮って記録しておくことも重要」としています。においについても同じです。
- 時間帯:朝いちばんに強いなら、夜間に空気が動かない場所が疑われます。
- 天候:雨の日・雨上がりに強いなら、外部からの水の可能性が上がります。
- 操作との関係:エアコンをつけた直後、扉を開けた直後、水を使った後。
- 場所の移動:どこで強く、どこで弱いか。強い場所を線でつなぐと、空気の流れが見えてきます。
これに温度と湿度の記録を重ねます。温湿度は常時計測して記録するのが基本で、同マニュアルは相対湿度が65パーセントを恒常的に越えていないか監視することを勧めています。厚生労働省の建築物環境衛生管理基準でも、空気環境の調整として相対湿度40〜70%、温度18〜28℃が定められています。
なお、この基準で測定が求められている項目に、においそのものは含まれていません。においは数値化されないぶん、記録して初めて手がかりになります。
5. 消臭・換気・発生源の処置は、別のこと

表2 3つの対応の違い
| 対応 | 変わること | 変わらないこと |
|---|---|---|
| 消臭・芳香 | 感じるにおいの強さ | 発生源。使用を止めれば再び臭う |
| 換気・除湿 | 空気中の濃度と、水分条件 | すでに定着した菌糸。条件が戻れば再び増える |
| 発生源の処置 | においの出どころそのもの | 水の出所を断てていなければ、また同じ場所に出る |
出典:文部科学省「カビ対策マニュアル」基礎編(カビは一度発生すれば必ず被害が残る)、東京都立図書館「カビ対策」(対症療法だけでは再発の危険性)をもとに整理。
換気には意味があります。ただし、それは条件を弱めるための手段であって、発生源を無くす手段ではありません。「窓を開けたら臭わなくなった」は、改善ではなく希釈です。閉め切った翌朝にまた臭うなら、発生源は残っています。
6. カビ臭と紛らわしいにおい
においの原因がカビとは限らない点も、押さえておきたいところです。たとえば東京都保健医療局は、代表的な産膜酵母であるピキアについて、ケーキ、パン、いなり寿司などの食品で増殖すると酢酸エチルを産生し、シンナー臭を発生させると説明しています。シンナーのようなにおいなら、カビとは別のものを疑う余地があります。
下水のようなにおい、金属くさいにおい、焦げたようなにおいも、それぞれ別の原因が考えられます。「カビ臭い」と表現されるにおいが、実際にどう感じられるのかを言葉にしておくことが、切り分けの出発点になります。
まとめ
- 点在する斑点程度ではあまり臭わない。臭うのは活発に繁殖している段階。
- においの物質は極めて低い濃度でも感知されるため、発生源と臭う場所は一致しないことが多い。
- 疑うのは、空気が動かず、冷える面がある場所。壁裏・床下・空調内部・家具の裏・水回り。
- いつ・どこで強いかを記録し、温湿度の記録と重ねる。
- 消臭・換気・発生源の処置は別のこと。においが消えても発生源は残る。
次回・第8回は「カビと健康|アレルゲンと日和見感染の基礎、受診を考えるべきサイン」です。
においはするのに場所が分からない、という段階は、実は調べる価値がいちばん高いタイミングです。壁や床を開ける前に、温湿度の測定や検査で当たりをつけられる場合があります。判断に迷う段階でご相談ください。
【参考・出典】文部科学省「カビ対策マニュアル」実践編2-1、同基礎編、同Q&A、環境省「水質基準項目と基準値(52項目)」(ジェオスミン/2-メチルイソボルネオール 0.00001mg/L以下)、厚生労働省「建築物環境衛生管理基準」(空気環境の調整)、東京都保健医療局「食品衛生の窓」ピキア(ハンゼヌラ)、東京都立図書館「カビ対策」。本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の状況の診断ではありません。体調面の不安がある場合は医療機関にご相談ください。費用や工法は現地調査のうえで判断します。












