冷蔵庫の扉を開けたとき、パッキンの溝に黒い点が並んでいるのを見つけたことはないでしょうか。「冷やしているのにカビが生えるのか」と驚かれますが、冷蔵庫はカビを止める装置ではなく、遅らせる装置です。しかも扉のまわりは、庫内より条件が厳しくありません。
この記事では、冷蔵庫のどこにカビが出やすいのか、なぜ低温でも生えるのかを整理したうえで、月1回で済む掃除の手順と、やってはいけないことをまとめます。
結論
- 冷蔵庫のカビは「冷えていない場所」に出ます。扉のパッキン、野菜室、製氷機の給水タンク、そして庫外の背面。庫内の棚は最後です。
- 低温はカビを止めません。農林水産省の資料でも、マイナス2℃から生育するかびが示されています。冷蔵室の4〜10℃は、ゆっくり育つ温度です。
- 対策は「詰めすぎない」「月1回、空にして拭く」の2つで足ります。塩素系漂白剤を庫内に使う必要はありません。
冷蔵庫のどこにカビが出るのか
順番に見ていきます。出やすい順です。
扉のパッキン
もっとも多い場所です。パッキンは庫内の冷気と室内の暖かい空気の境目にあり、常に結露しているうえ、折りたたまれた溝に食品のかすや手の汚れがたまります。水と栄養が揃った状態が続くので、温度が低くてもカビは育ちます。結露そのものの仕組みはカビと結露|湿度ではなく温度差の問題で詳しく書いています。
野菜室
野菜室は冷蔵室より温度が高めに設定され、野菜自身が水分を出すため湿度も高くなります。土つきの野菜にはもともとかびの胞子がついていますから、底にたまった水分と野菜くずが、そのまま培地になります。
製氷機の給水タンクと経路
自動製氷機の給水タンクは「水しか入れないから汚れない」と思われがちですが、水道水の塩素は時間がたつと抜けます。常温に近い場所に置かれたタンクの水は、数日で微生物が増える条件になります。氷が黒ずむ、氷がにおう、という相談の多くはここが原因です。
冷蔵室の棚・ドアポケット
庫内はもっとも温度が低く、乾燥もしているため、カビが出るとすればこぼれた液体や、傷んだ食品からの二次的な広がりです。食品にカビが生えたまま放置すると、胞子が庫内全体に飛びます。
庫外:背面と下部
意外に見落とされるのが冷蔵庫の外側です。背面の放熱部にはほこりがたまり、床との隙間は湿気がこもります。壁との距離が近いと放熱が悪くなり、庫内温度が上がる原因にもなります。農林水産省は「壁や天井との間は、取扱説明書で定められた距離を確保し、冷蔵庫の裏側のほこりは定期的に掃除しましょう」と案内しています。
なぜ低温でもカビが生えるのか
カビが育つ条件は、温度・水分・栄養・時間の4つです(詳しくはカビが育つ条件)。このうち温度は「どれくらいの速さで育つか」を決める要素であって、ある温度を下回ればゼロになる、という性質のものではありません。
農林水産省の「いろいろなかび毒」では、かび毒T-2トキシン・HT-2トキシンを作るかびについて、マイナス2℃から35℃の間で、かつ水分活性が高い場合に生育すると説明されています。冷蔵室の温度は農林水産省の目安で4℃前後、厚生労働省の家庭向けの目安で10℃以下ですから、この範囲は「育ちにくい」であって「育たない」ではありません。
冷凍室(マイナス15℃以下〜マイナス18℃以下が目安)では活動はほぼ止まりますが、胞子は死なずに残ります。解凍して常温に戻せば、また育ち始めます。
食品にカビが生えたら
「カビの部分を削れば食べられるか」という質問をよく受けます。当社は食品の専門機関ではありませんので、農林水産省の説明をそのまま紹介します。かびが作る「かび毒」は、通常の加工・調理では十分に減少しないものがあり、食品から取り除くことは困難とされています。かびが見える部分の外側にも菌糸は広がっていますから、目に見える部分だけ削っても安全とは言えません。
身近な例がりんごです。落果や傷から侵入したアオカビ(ペニシリウム属)などが保管中に増え、パツリンというかび毒を作ります。日本ではりんごジュースと原料用果汁について、パツリンの基準値0.050ppmが定められています。傷んだ果物を野菜室に長く置かないことは、庫内のカビ対策であると同時に、食品側の対策でもあります。
対策は2つ:詰めすぎない、月1回空にして拭く
1. 詰めすぎない(目安は7割)
厚生労働省の「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」では、冷蔵庫は10℃以下、冷凍庫はマイナス15℃以下を目安とし、詰めすぎは7割程度までとされています。農林水産省も、詰め込みすぎると空気の流れが悪くなり、冷えにくくなったり温度にムラができると説明しています。温度ムラができた場所が、庫内でカビが出る場所です。
冷凍室だけは逆で、冷凍した食品を詰めることが節電につながります(農林水産省)。「冷蔵室は7割、冷凍室はぎっしり」と覚えてください。
2. 月1回、空にして拭く
頻度は月に1回で足ります。手順は次の順番です。
- 中身を出す。賞味期限切れや傷んだものはこのとき処分します。これが実質的に一番効く工程です。
- 棚・ケースを外して水洗いし、完全に乾かす。濡れたまま戻すと意味がありません。
- パッキンの溝を綿棒か古い歯ブラシでかき出し、消毒用エタノールを含ませた布で拭く。溝の奥まで届かせるのがコツです。
- 庫内を消毒用エタノールで拭く。食品を扱う場所なので、洗剤は残らないものを使い、拭き残しをつくらないようにします。
- 製氷機の給水タンクは週1回、洗って乾かす。長期間使わないときは水を抜いておきます。
- 背面と下部のほこりを取る。冷蔵庫を少し動かせるなら、年に1〜2回で構いません。
やってはいけないこと
- 塩素系漂白剤を庫内に使う。樹脂やパッキンを傷めるうえ、食品に触れる場所に残留します。国民生活センターは2026年3月、住宅用塩素系洗浄剤の「まぜるな危険」事故について注意喚起を出しており、狭い場所で酸性のもの(クエン酸、酢など)と近づけるのは危険です。冷蔵庫にはエタノールで足ります。
- 濡れたまま食品を戻す。掃除の直後にカビが再発する原因の大半はこれです。
- カビが生えた食品をそのまま置いておく。胞子が庫内に広がります。見つけたらその日のうちに袋に入れて捨ててください。
- 扉を長く開けたままにする。暖かい空気が入るたびに、パッキンと庫内壁面に結露が起きます。
よくある質問
Q. パッキンの黒ずみが拭いても落ちません。
A. 溝の奥まで菌糸が入り込んでいると、表面を拭いただけでは色が残ります。パッキンは多くの機種で交換部品として手に入りますので、色が落ちない・ひび割れている・扉が密閉できないのいずれかなら交換が確実です。密閉が甘いと庫内温度も上がり、電気代にも響きます。
Q. 冷蔵庫の掃除に、キッチン用の除菌スプレーは使えますか。
A. 製品の表示に「食品が触れる場所に使える」「拭き取り不要」などの記載があるものは使えます。表示にない用途では使わないでください。迷ったら、消毒用エタノールを布に含ませて拭く方法が確実です。
Q. 冷蔵庫の外側にカビが出ました。冷蔵庫の問題ですか。
A. 多くの場合、冷蔵庫ではなく置いてある部屋の問題です。冷蔵庫の背面や側面の壁にカビが出るのは、放熱で暖められた空気が冷たい壁に触れて結露しているか、家具のように壁との隙間で空気が動かないためです。壁の側にも広がっている場合は、カビ対策ガイド(除去方法と再発防止策)を参考に、部屋の側の原因を確認してください。
まとめ
冷蔵庫のカビは、庫内よりもパッキン・野菜室・製氷機・庫外といった「冷えきっていない場所」に出ます。低温はカビの速度を落とすだけで、止めはしません。対策は詰めすぎないこと(冷蔵室は7割まで)と、月1回中身を出して乾かし、エタノールで拭くこと。この2つで十分です。塩素系漂白剤は使わず、濡れたまま戻さない。この線引きさえ守れば、冷蔵庫のカビで困ることはほとんどなくなります。
※当社は医療機関・食品の検査機関ではありません。食品の安全性についての判断は、記事中で紹介した公的機関の情報をご確認ください。
参考資料(一次情報)
- 農林水産省「冷蔵庫のかしこい使い方〜知ってお得な食品の保存〜」(冷蔵室は4℃前後、冷凍室はマイナス18℃以下、詰め込みすぎによる温度ムラ、背面の掃除)
- 厚生労働省「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」(冷蔵庫は10℃以下、冷凍庫はマイナス15℃以下、詰めすぎは7割程度まで)
- 農林水産省「かびとかび毒についての基礎的な情報」「いろいろなかび毒」(かび毒は通常の加工・調理で十分に減少しないものがある/T-2・HT-2トキシン産生かびはマイナス2℃〜35℃で生育/りんごのパツリン基準値0.050ppm)
- 独立行政法人国民生活センター「住宅用塩素系洗浄剤の使い方-まぜるな危険!浴室などで事故が発生しています-」(2026年3月18日公表)












