賃貸住宅でカビが出たとき、負担の分かれ目になるのは「貸主に通知したか」「手入れをしたか」です。国土交通省のガイドラインがそう書いています(詳しくは賃貸のカビは誰の負担か)。
ただ、実際に困るのはその先です。いつ、何を、どう伝えればいいのか。この記事は、その手順と文例をまとめたものです。
結論
- 口頭だけで伝えない。電話で話した場合も、あとからメールやチャットで要点を送っておきます。記録が残らない連絡は、後から「言った・言わない」になります。
- 写真は「日付が分かる形」で残す。スマートフォンの撮影日時は残りますが、送信した記録とセットにしておくとより確実です。
- 感情ではなく事実を書く。誰が悪いかを主張する文面より、いつ・どこに・どんな状態かを淡々と書いたほうが、話は早く進みます。
入居時にやっておくこと
カビが出てからでは、入居時の状態を証明できません。入居直後の数日間で、次を済ませておくと後が楽になります。
- 全部屋の写真を撮る。とくに押入れ・クロゼットの中、窓まわり、洗面所と浴室、エアコンの吹き出し口、家具を置く前の壁面。カビが出やすい場所が、そのまま撮っておくべき場所です。
- においを確かめる。締め切った押入れを開けた瞬間のにおいは、あとで再現できません。気になったらその場でメモします。
- 気になる点は入居時に伝える。多くの管理会社が入居時チェックシートを用意しています。提出前にコピーか写真を残しておくと、後から内容を確認できます。
- 24時間換気のスイッチの位置を確認する。2003年7月以降に着工した住宅には設置が義務づけられています。最初から切られていることがあります。
カビを見つけたら、まず記録する
連絡する前に、次の5つを押さえます。
- いつ気づいたか(日付)
- どこか(部屋、面、高さ。「北側和室の押入れ下段、奥の壁」のように具体的に)
- どのくらいの範囲か(定規やスマートフォンを一緒に写すと大きさが伝わります)
- いつからか(前に見たときはなかった、など)
- 思い当たる状況(結露していた、雨のあとに濃くなった、など)
写真は引きの写真と寄りの写真の両方を撮ります。引きだけだと場所は分かっても状態が伝わらず、寄りだけだとどこか分かりません。
管理会社への連絡文例
そのまま使える形にしています。角を立てずに、事実だけを伝える構成です。
① 最初の報告
お世話になっております。○○号室の△△です。
室内にカビの発生を確認しましたので、ご報告いたします。・確認日:2026年○月○日
・場所:北側洋室、東側の壁面下部(床から約30cmまで)
・範囲:幅約50cm×高さ約30cm
・状況:今冬に入ってから当該面の結露が続いており、拭き取りは行っていましたが、カビが発生しました。写真を添付いたします。今後の対応についてご相談させてください。
ポイントは「拭き取りは行っていました」を書いておくことです。手入れをした事実は、あとで意味を持ちます。
② 返答がないときの再連絡
お世話になっております。○○号室の△△です。
○月○日にご報告したカビの件について、その後のご対応の見通しをお知らせいただけますでしょうか。現在も同じ面に発生が続いており、範囲が広がっております(○月○日時点の写真を添付します)。
お忙しいところ恐れ入りますが、ご確認をお願いいたします。
1回目の報告日を明記することが重要です。「いつ伝えたか」が記録に残ります。
③ 退去時に請求を受けたとき
お世話になっております。○○号室の△△です。
原状回復費用のご請求について、内訳をご教示いただけますでしょうか。カビの発生については、○月○日および○月○日に貴社へご報告し、写真も送付しております。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」における区分の考え方もふまえ、負担の範囲についてご説明いただければ幸いです。
争う文面ではなく、説明を求める文面にしています。まず内訳と根拠を確認するのが順序です。
やらないほうがよいこと
- 自己判断で大がかりに手を入れる。壁紙を剥がす、塗料を塗るといった処置は、それ自体が原状回復の対象になりかねません。
- 撮る前に掃除してしまう。気持ちは分かりますが、状態を記録してからにしてください。
- 塩素系漂白剤を安易に使う。畳表やクロスが脱色すると、そちらが新たな負担の対象になります。酸性タイプの製品との混合事故のリスクもあります。
- 感情的な文面を送る。相手も記録として残します。事実だけのほうが、結果的に早く動きます。
それでも解決しないとき
当事者間で折り合わない場合の窓口があります。
- 消費者ホットライン「188」。全国共通の電話番号で、お近くの市区町村や都道府県の消費生活センター等の相談窓口を案内してもらえます。相談自体は無料です(通話料は発生します)。市外局番ではないので、そのまま188とかけます。
- 住まいるダイヤル(公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター)。国土交通大臣から指定を受けた住宅専門の相談窓口です。受付は10:00〜17:00(土日祝・年末年始を除く)。電話番号は公式サイトでご確認ください。
当社はカビ取り・カビ対策の専門会社であり、法律の専門家ではありません。金銭や契約の争いについては、上記の窓口や弁護士等にご相談ください。
建物側の原因が疑われるとき
次のような場合は、住まい方の話ではなく建物の話です。
- 雨のあとに濃くなる、同じ場所だけ繰り返す(漏水や床下の問題)
- 特定の壁だけが極端に冷え、拭いても結露が止まらない(断熱の欠損)
- 入居直後から発生していた
- 24時間換気が動いていない、または設置されていない
この場合も、手順は同じです。記録して、伝える。原因の切り分けは、その後で専門業者が行います。
よくある質問
Q. 電話で伝えました。それでは足りませんか。
A. 電話が悪いわけではありません。ただ記録が残らないので、通話後に「先ほどお電話でお伝えした件です」とメールを1通送っておくと確実です。
Q. 写真は何枚くらい必要ですか。
A. 枚数より内容です。場所が分かる引きの写真と、状態が分かる寄りの写真がセットであれば、各所2枚で足ります。
Q. 管理会社が「借主の責任」と言っています。
A. まず根拠と内訳の説明を求めてください。そのうえで納得できない場合は、消費生活センター等にご相談ください。
まとめ
賃貸のカビで大事なのは、早く伝えることと、伝えた記録が残っていることです。手入れをしていた事実も、あとから効いてきます。
そして、記録は争うために取るのではありません。原因を早く特定して、被害を小さくするためです。先送りするほど、範囲も費用も大きくなります。
参考資料(一次情報)
- 国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」平成23年8月
- 消費者庁「消費者ホットライン」(全国共通番号188。市区町村・都道府県の消費生活相談窓口を案内。相談は無料、通話料は利用者負担)
- 公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住まいるダイヤル」(国土交通大臣指定の住宅専門相談窓口。受付10:00〜17:00、土日祝・年末年始を除く)
- 建築基準法施行令第20条の8(機械換気設備の必要換気回数:住宅等の居室0.5回/h。平成15年7月1日施行)
※当社はカビ取り・カビ対策の専門会社であり、法律の専門家ではありません。本記事の文例は連絡の一例であり、個別の契約や紛争についての助言ではありません。












