カビ対策の記事は数え切れないほどありますが、そのほとんどは「どう取るか」の話です。ここでは一段手前、カビがそもそも何を必要としているのかを整理します。条件が分かれば、対策のうちどれが効いてどれが気休めかも判断できるようになります。
結論:4つの条件のうち、住宅で操作できるのは「水分」だけ
カビが育つには、温度・水分・栄養・時間の4つが必要です。このうち住まいの側で現実的に断てるのは、水分だけです。
- 温度は下げられません。人が快適な20〜30℃は、多くのカビにとっても好適な温度帯です。人が住む限り、この条件は外せません。
- 栄養も断てません。カビはホコリ、皮脂、木材、糊、塗料など、住宅にあるほぼすべてを栄養にできます。掃除で減らせても、ゼロにはできません。
- だから水分を断つ。厚生労働省の建築物環境衛生管理基準は、相対湿度を40%以上70%以下、温度を18℃以上28℃以下に保つこととしています。カビ対策で効くのは、この一点に集約されます。
そもそもカビとは何か
カビは微生物の一種で、分類上は真菌という仲間に入ります。キノコや酵母と同じグループです。
顕微鏡で見ると、細長い細胞が糸のようにつながった形をしています。これが菌糸で、ここから水分と栄養を吸収して伸びていきます。「カビが物を傷める」と言われるのは、菌糸の細胞が出す酵素が、付着した物質そのものを分解して吸収してしまうからです。汚れが載っているのではなく、素材が食べられています。
そして菌糸が成熟すると胞子をつくり、空気中に放出します。胞子は数マイクロメートルという小ささで、肉眼では見えません。これが次の場所へ運ばれ、条件が揃ったところで発芽します。
条件① 温度
カビには高温を好むもの、低温でも生きられるものがあり、種類によって適した温度帯が違います。ただし住宅で問題になる種類の多くは、おおむね20〜30℃で最も活発になります。人間が快適だと感じる温度と、ほぼ重なります。
「冬はカビないから安心」と言われることがありますが、これは正確ではありません。暖房が効いた室内は温度条件を満たしています。冬にカビが出る場合、原因は温度ではなく結露という水分側の問題です。
条件② 水分 — ここが分かれ目
4条件のうち、唯一こちらから操作できるのが水分です。目安になる公的な数字は2つあります。
- 相対湿度40%以上70%以下(厚生労働省・建築物環境衛生管理基準)。延べ面積3,000㎡以上の特定建築物に適用される基準ですが、住宅でも判断のものさしとして使えます。
- 相対湿度30%以上80%以下(文部科学省・学校環境衛生基準)。学校の教室等に適用される基準です。
実務上の目安としては、70%を超える時間が続くかどうかを見ます。一時的に上がることは避けられませんが、それが常態化すると条件が揃います。
注意したいのは、部屋の湿度計が正常でも、局所的には条件を満たしていることがある点です。家具の裏、押入れの奥、外壁に面した部屋の隅。空気が動かない場所は、その一角だけ湿度が高くなります。カビが四角い形や帯状に出るのは、たいていこの理由です。
条件③ 栄養
カビが栄養にできるものは、想像より広い。ホコリ、皮脂、食べこぼしといった有機物はもちろん、木材、紙、糊、塗料、ビニールクロスの可塑剤まで対象になります。コンクリートのような無機材料でも、表面に付着した汚れを足場にして繁殖します。
つまり「きれいにしているのにカビる」は矛盾しません。掃除で栄養を減らすことには意味がありますが、それだけでカビを止めることはできません。
条件④ 時間
胞子が付着してから目に見えるようになるまでには、時間がかかります。条件が揃えば数日で集落(コロニー)を形成し、そこで初めて肉眼で確認できる大きさになります。
逆に言えば、私たちが「カビが生えた」と気づいた時点で、その環境はすでに数日以上、条件を満たし続けていたということです。見つけたときには、原因は前から存在しています。
カビはどこから来るのか
「カビが発生した」という言い方をしますが、無から生まれるわけではありません。胞子は外から入ってきます。
- 外気から。土壌や植物には多くの菌が存在し、風で舞い上がった胞子が窓や換気口から入ります。
- 人や物について。衣類、靴、荷物、ペットに付着して持ち込まれます。
- エアコンから。フィルターや内部に積もったホコリは、湿気と合わさると格好の培地になります。カビが繁殖したエアコンを運転すると、室内の胞子濃度は上がります。
したがって「胞子を室内に入れない」という対策は、現実的ではありません。入ってくる前提で、発芽させない環境をつくるのが正しい構えです。
だから対策は「水分を断つ」に集約される
ここまでを踏まえると、やるべきことは絞られます。
- 測る。まず温湿度計を置きます。カビが出る部屋に置いてください。感覚では判断できません。
- 動かす。換気は入口と出口があって成立します。1か所開けるだけでは空気は流れません。対角の2か所、または1か所+サーキュレーター。
- 塞がない。家具を壁から離す、押入れに詰め込みすぎない、畳の上に物を置きっぱなしにしない。局所的な高湿度は、ほぼ「空気が動かないこと」が原因です。
- 季節で使い分ける。梅雨と夏は換気だけでは湿度が下がりません。外気自体が高湿度だからです。除湿機やエアコンの除湿を併用します。冬は逆に、結露する冷たい面を減らすほうが効きます。
なお、湿気やカビのある建物と健康の関係については、WHOが2009年の室内空気質ガイドラインで、呼吸器症状や喘息の悪化などのリスク上昇を示しています。同ガイドラインは、安全といえる定量的な基準値は設定できないとしたうえで、湿気とカビを防ぐこと自体を勧告しています。
よくある質問
Q. 除菌スプレーを使えばカビは防げますか。
A. 付着した菌には作用しますが、湿度が高いままなら新しい胞子が入って再び発芽します。条件を変えない限り、繰り返しになります。
Q. 湿度が低ければカビは絶対に生えませんか。
A. 種類によって必要とする水分量には幅があります。ただし住宅で問題になるカビの多くは、湿度を70%以下に保てていれば、増殖しにくくなります。
Q. 見えないのにカビ臭いのはなぜですか。
A. 見えていないだけで、壁の裏、床下、エアコン内部など、目の届かない場所で繁殖している可能性があります。臭いは発生源があるサインです。
まとめ
カビには温度・水分・栄養・時間の4条件が必要で、住宅で断てるのは水分だけです。だからカビ対策は、突き詰めると湿度管理の話になります。
そして、カビが見えた時点で条件はすでに前から揃っています。取ることより、条件を戻すこと。順番を逆にすると、同じ作業を繰り返すことになります。
参考資料(一次情報)
- 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」(相対湿度40%以上70%以下、温度18℃以上28℃以下、二酸化炭素1000ppm以下ほか)
- 文部科学省「学校環境衛生基準」(相対湿度30%以上80%以下ほか)
- World Health Organization「WHO guidelines for indoor air quality: dampness and mould」2009
※当社は医療機関ではありません。健康上の症状については医療機関にご相談ください。












