「雨が続くと体が重い」「梅雨どきだけ咳が出る」——湿度と体調を結びつけて考える方は少なくありません。ただ、公的機関が公開している情報を読んでいくと、室内の湿度と体調の関係は「湿気そのものが悪い」という単純な話ではないことが分かってきます。今回は、湿度の高い部屋・結露する部屋で実際に何が起きているのかを整理します。
1. ぜん息の資料と一般の体調を分けて考える
環境再生保全機構の「天気とぜん息の関係を知っておきましょう①」は、梅雨時のぜん息とカビ・ダニ等のアレルゲンについて説明した資料です。湿った空気そのものと、長期間の高湿度で増えるアレルゲンを区別しています。この説明を、一般の体調不良の原因が湿度やカビであるという判断へ広げることはできません。
同機構の成人ぜん息向け案内は、発作の原因やアレルゲンには個人差があり、全員が一律にすべての環境対策を行う必要はないとしています。症状の原因や必要な対策は医療機関で相談し、建物側ではカビ・濡れ・臭いなどの観察記録と、水分原因の点検を分けて進めます。
- ぜん息などの症状・原因アレルゲン・必要な環境対策は医療機関で相談します。
- 住まいでは、カビの場所、濡れ・臭い、温湿度の変化を記録します。
- 湿度の数値だけで、症状の原因や建物内部の状態を確定しません。
ERCAのぜん息資料の対象を踏まえた整理です。
2. 「部屋は55%」でも安心できない理由
厚生労働省の建築物環境衛生管理基準の案内には、相対湿度40〜70%、温度18〜28℃が示されています。ただし、対象建築物や空気調和設備等の適用条件があります。これを住宅全般の健康やカビの安全判定値として、そのまま当てはめるものではありません。
ただ、温湿度計が示すのは「その計器が置かれた場所の空気」です。同じ部屋でも、外壁側の壁面や窓際、家具の裏は周囲の空気より冷たくなります。空気は冷えるほど含める水蒸気の量が減るため、冷たい面のそばだけ相対湿度は高くなり、露点を下回ればその面で結露が起きます。結露した面では材料が水を持つため、カビにとっての条件は一気に整います。
国土交通省 国土技術政策総合研究所の「木造住宅の長期使用に向けた屋根、外壁、床下のメンテナンスガイドライン」では、部位内結露は発見が遅れるうえに乾燥しにくく、最も厄介な水分供給現象の一つと指摘されています。壁の中で起きている場合、表に出てくるまで気づけないということです。
表1 同じ部屋でも条件が違う
| 見ている場所 | そこで分かること | 見落としやすいこと |
|---|---|---|
| 部屋の中央(一般的な温湿度計の位置) | 計器が置かれた場所の温湿度。日時と設置位置をそろえた記録 | 冷える面のそばの状態は反映されない |
| 外壁側の壁面・窓際 | 結露が起きうる場所かどうか。中央より高い値が出ることがある | 家具や荷物で塞がれていると、さらに条件が悪くなる |
| 押し入れ・床付近 | 空気が動かず湿気がたまりやすい場所の状態 | 扉を閉めたままの時間帯が測れていないことが多い |
| 壁の中・床下(部位内) | —(通常は直接測れない) | 発見が遅れ、乾燥しにくい。表面のカビは結果として出てくることがある |

3. 「加湿すればいい」でもない
湿度管理の目的と対象を確認します。建物の空気環境を管理する基準、資料保存施設の管理目安、個人の病気に応じた環境対策は同一ではありません。室内数値だけで加湿・除湿を一律に決めず、濡れの有無や設備の状態も確認します。
環境再生保全機構の成人ぜん息向け「室内環境を見直しましょう」は、原因となるアレルゲンに応じて対策を選ぶ説明で、全員が一律にすべての対策を行う必要はないとしています。ダニ対策等に加湿器を使わない記載がありますが、これをすべての人・季節に共通の医療指示として読み替えません。ぜん息などで通院中の方は主治医と必要な環境対策を相談し、機器の使用と手入れは取扱説明に従います。建物側では温湿度の変化や結露・漏水等を確認します。
表2 湿度の資料は対象と条件を区別する
| 資料・案内 | 扱っている対象 | 住宅での読み方 |
|---|---|---|
| 厚生労働省の管理基準 | 対象建築物・設備条件に応じた空気環境 | 住宅全般の健康・カビの安全判定値に置き換えない |
| 文部科学省のカビ対策マニュアル | 文化財・図書等の資料保存 | 保存環境の数値を住宅の材料状態や生育停止の保証にしない |
| 国立国会図書館の温湿度管理 | 図書館資料・書庫の保存環境 | 施設の条件や保存物に合わせた運転例と区別する |
| ERCAのぜん息資料 | 原因アレルゲンや季節等に応じた対策 | 本人に必要な環境対策を医療機関で相談する |
出典:厚生労働省「建築物環境衛生管理基準」、文部科学省「カビ対策マニュアル 基礎編」、国立国会図書館「温湿度管理」、独立行政法人環境再生保全機構
4. どこで測り、何を記録するか
体調と住まいの関係を考えるとき、記録は住まい側でできる数少ない準備です。厚生労働省の「科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改訂新版)」では、聴き取り項目として症状が強くなるのは・よくなるのはどのようなときか、暖房器具や設備、住宅内での生活習慣が挙げられています。医療機関で相談する際にも、こうした情報がそろっていると話が早くなります。
文部科学省のカビ対策マニュアル実践編・環境調査は、資料保存施設で中央や隅などを比較する方法を説明しています。記載された測定高さや棚内外の差を、一般住宅で必ず同じ条件になる値として扱いません。住宅では、測定日時・場所・高さ・温度を記録し、部屋の中央と発生場所付近の変化を確認します。計器の値だけで壁内や床下の状態を確定することもできません。
- 住まい:温湿度の測定場所・高さ・日時、結露や漏水、カビ・臭いの場所。
- 暮らし:換気・暖房・冷房、室内干しや加湿器などの使用状況。
- 医療相談:症状が強くなる・軽くなる時期や場所。原因の判断は医療機関へ。
資料保存施設や特定建築物の測定条件を、全住宅共通の測定基準とはしません。
文部科学省のカビ対策マニュアル実践編は、文化財・図書等の資料を処置する際、積極的な除湿で乾燥した胞子が飛散しやすくなる場合の区画化と大気清浄化を説明しています。これは資料の状態と処置方法を踏まえた注意で、住宅全般の除湿を控えるという指示ではありません。住まいでは水分原因への対応を進め、広い範囲や壁内などの処置は、素材・発生範囲・養生・作業中の利用条件を担当者と確認します。
5. まとめ
- ぜん息資料の説明を一般の体調へ広げず、本人の症状や原因アレルゲンに応じた対策を医療機関で相談する
- 中央と発生場所付近の温湿度は異なる場合がある。数値だけで壁内結露やカビの原因を確定せず、必要な点検を検討する
- 建物管理・資料保存・個別の医療対策では対象が異なる。温湿度の記録と濡れの確認、機器の取扱説明を踏まえて管理する
- 測る場所を変えて記録し、症状と暮らし方の記録もそろえておくと、医療機関でも住まいの相談でも話が進めやすい
「カビと健康の関係」全5回の第2回です。第1回はカビとアレルギー|ぜん息・アレルギー性鼻炎と室内アレルゲンの基礎。湿度と結露の仕組みそのものは、結露はなぜ起きるのか|露点と飽和水蒸気量から見るカビの発生、水分活性(Aw)と相対湿度の違いで詳しく扱っています。
壁の中や床下など、目視で確認できない場所の状況が気になる場合は、カビ菌検査や現地調査もご相談いただけます。処置の考え方はMIST工法®のページをご覧ください。費用は建物の状態によって変わるため、現地調査のうえでのお見積りとなります。
