カビの話をするとき、多くの場合はアレルギーの話になります。ただ、公的機関の資料を読み進めると、もう一つの側面が出てきます。免疫が下がっている状態の方にとっては、環境中の真菌が「感染」の問題になることがあるという側面です。今回はその基礎と、住まいの側でできる備えを整理します。
1. 「日和見感染」という言葉が意味していること
日和見感染とは、ふだんは問題を起こさない微生物が、受け手の状態によって感染症を引き起こすことを指す言葉です。真菌の場合、環境そのものが特別なわけではなく、同じ環境が、立場によって意味を変えると考えると分かりやすくなります。
国立健康危機管理研究機構の感染症情報提供サイトでは、アスペルギルス症について、環境中に広く存在するAspergillus属の糸状菌が原因となり、ヒトがこれらを吸入することによって感染が生じるとされています。そして、好中球減少症の患者や造血幹細胞移植を受けた患者など、免疫不全の患者において発症しやすいと記載されています。侵襲性肺アスペルギルス症については、現在利用可能な最も効果的な治療薬を用いても、依然として高い致命率を有しているとされています。

2. 代表的な2つの真菌と、環境との関係
住まいの側から見て押さえておきたいのは、「どこにいるのか」と「どう入ってくるのか」です。
表1 アスペルギルス属とクリプトコックスの比較
| 項目 | アスペルギルス症 | クリプトコックス症 |
|---|---|---|
| 原因となる真菌 | 環境中に広く存在するAspergillus属の糸状菌 | クリプトコックス・ネオフォルマンスが国内のほとんどの症例を占める(ほかにクリプトコックス・ガッティ) |
| 環境中の分布 | 胞子・分生子が空気中に浮遊している | 感染源としてハトなどの鳥の糞との関与が示唆されている |
| 感染経路 | 吸入によって感染が生じるとされる | 環境中に浮遊する真菌の吸入、あるいは創傷のある皮膚などを介して感染するとされる |
| リスク因子とされるもの | 好中球減少症、造血幹細胞移植を受けた患者などの免疫不全 | 腎疾患、膠原病、悪性腫瘍、糖尿病、ステロイド投与など。HIV感染はクリプトコックス脳髄膜炎のハイリスクとされる |
| ヒトからヒトへの感染 | — | ヒト間感染は報告されていない |
出典:国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「アスペルギルス症:薬剤耐性問題の現状と対策」「クリプトコックス症の概要」
クリプトコックス症については、健常者の肺クリプトコックス症例では無症状のことが多いとも記載されています。ここでも、環境と受け手の状態の組み合わせが問題になっていることが分かります。

3. 住まいの側でできること
感染そのものは医療の領域ですが、住まいの側でできるのは「吸い込む量を増やさない」という一点に集約されます。特別な設備の話ではなく、これまでの連載で扱ってきた内容と重なります。
表2 場面別に考えること
| 場面 | 住まいの側で考えること | 根拠となる考え方 |
|---|---|---|
| ふだんの環境 | 相対湿度40〜70%・温度18〜28℃の範囲に収める。カビが増えれば、空気中に出る胞子も増える | 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準」 |
| カビを見つけたとき | 放置せず、しかし広げない。噴霧器は胞子を吹き飛ばして汚染を広げるとされる | 文部科学省「カビ対策マニュアル Q&A」 |
| 除去作業をするとき | 区画し、吸引しながら、呼吸用保護具を使う。乾燥した胞子は飛散しやすい | 文部科学省「カビ対策マニュアル 実践編」 |
| 空調機・加湿器 | 冷却して結露させる機構のため元来カビが繁殖しやすいとされる。定期的な手入れを前提にする | 文部科学省「カビ対策マニュアル Q&A」 |
| ベランダ・軒下 | 鳥の糞が堆積したままにしない。乾いた糞を掃き上げると粉じんが舞う | 国立健康危機管理研究機構「クリプトコックス症の概要」(ハトなどの鳥の糞との関与が示唆) |

どこまで環境に配慮すべきかは、治療の内容や時期によって変わります。住まいの側の判断だけで決めず、主治医に確認したうえで、必要な範囲を決めてください。範囲が広い場合や壁の中が疑われる場合は、ご本人が作業しない形を検討することも一つの方法です。
4. まとめ
- アスペルギルス属は環境中に広く存在し、吸入によって感染が生じるとされる。免疫不全の患者で発症しやすいとされている
- クリプトコックス症では、ハトなどの鳥の糞との関与が示唆され、ヒト間感染は報告されていない
- 住まいの側でできるのは「吸い込む量を増やさない」こと。湿度管理、放置しない、広げない、の3点
- どこまで配慮するかの判断は医療機関の領域。自己判断で決めない
「カビと健康の関係」全5回の第3回です。第1回カビとアレルギー|ぜん息・アレルギー性鼻炎と室内アレルゲンの基礎/第2回室内の湿度と体調|結露が起きる家で何が起きているか。除去作業の考え方は掃除で落ちるカビ・落ちないカビもあわせてご覧ください。
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