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カビ取り屋の知恵袋

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石膏ボードと壁紙|下地までカビが入るとき

執筆:MIST工法®カビバスターズ本部(株式会社せら) 本記事の数値は公的機関の公開資料にもとづいています。

ここまで4回、壁の中を見てきました。第16回は、いったん室内側へ戻ります。壁紙にカビが出たとき、どこまで入っているのかという話です。

相談として多いのが「拭いても、しばらくすると同じ場所に出てくる」というものです。この場合、表面で止まっていないか、水の出所が残っているか、その両方かが考えられます。

この記事は、公的資料に書かれていることを整理します。文部科学省のカビ対策マニュアルには、除去について具体的な記述があります。

この記事で分かること

  • 壁の仕上げが、室内側からどう重なっているか
  • カビが表面で止まっている場合と、下地に入っている場合の手がかり
  • 文部科学省のカビ対策マニュアルに示されている事項
  • 噴霧器を使わないこと、色素の除去が難しいこと
  • 張り替えを考えるときに確認すること
  • 仕上げの種類ごとに変わる注意点

1. 壁の仕上げは、室内側からどう重なっているか

図1 室内側から、壁紙・接着剤・石膏ボード・下地。それぞれ性質が違う

一般的な内装の壁は、室内側から次のように重なっています。

表1 壁の仕上げの層(室内側から)
順 層 性質
1 壁紙(ビニールクロス・紙クロスなど) 仕上げ。表面に汚れや塵埃がつく
2 接着剤(のり) 壁紙を石膏ボードに留める
3 石膏ボードの表面紙 紙。水を含むと弱くなる
4 石膏(ボードの芯) 水を含むと強度が落ちる
5 石膏ボードの裏面紙 紙
6 防湿層・断熱材・柱 壁の中(本連載の第11〜15回)

注目したいのは、3層目と5層目が「紙」であることです。国土交通省 大臣官房官庁営繕部の資料は、カビの条件として25〜30℃、木材表面が濡れること、塵埃を挙げています。紙は、この条件のうち栄養の側にあたります。

つまり、壁紙の表面だけの問題に見えても、その裏に紙の層があるという構造です。水が回っていれば、そこまで進む経路があることになります。

2. 表面で止まっているか、下地に入っているか

図2 拭いて落ちるかどうかだけでは分からない
表2 見分けの手がかり
手がかり 表面で止まっている可能性 下地まで入っている可能性
拭いたとき 拭き取ると薄くなる 拭いても色が残る
再発のしかた しばらく出ない 同じ場所に繰り返し出る
壁紙の状態 浮きやはがれがない 継ぎ目が浮く、めくれる
押したときの感触 硬い 柔らかい、へこむ
におい 弱い かび臭さが残る
広がりかた 点や小さな面 面として広がる、線状に出る
季節との関係 一時的 毎年同じ時期に出る

表2の右列が複数あてはまる場合、壁紙の表面を拭くだけでは終わらないと考えたほうが現実的です。国土技術政策総合研究所は、部位内結露について「発見が遅れるうえに乾燥しにくく、最も厄介な水分供給現象の一つ」と記しています。壁の中に水があるなら、表面の処置だけでは条件が残ります。

壁の中で何が起きているかは第11回、断熱の切れ目との関係は第15回で扱いました。

3. 文部科学省のカビ対策マニュアルに書かれていること

文部科学省の「カビ対策マニュアル」には、除去と予防について具体的な記述があります。学校等の施設を対象にした資料ですが、考えかたは住宅にも通じます。

表3 カビ対策マニュアルに示されている事項
項目 示されている内容
湿度の目安 相対湿度60%以下
水分活性 Aw 0.6以下
消毒用エタノール 「エチルアルコール濃度を70パーセントに保ち(蒸発を防ぎ)長時間接触させることでカビを殺菌することが可能」
噴霧器 使用しない
色素 除去は困難

「70%に保つ」「長時間接触させる」

消毒用エタノールの記述は、読み飛ばされやすいところです。濃度を70%に保つ(蒸発を防ぐ)ことと、長時間接触させることの2つが条件として書かれています。

エタノールは揮発します。吹きかけただけでは、濃度が保たれる時間も、接触している時間も短くなります。この記述は、「吹きかけて拭く」という使いかたとは前提が違うことを示しています。

噴霧器を使わない理由

マニュアルは噴霧器の使用を避けるよう示しています。霧にすると、カビの胞子を舞い上げて広げるおそれがあり、吸い込む量も増えます。拭き取る方法のほうが、広げずに済みます。

色素については、除去が困難と示されています。カビそのものを除いても、色は残ることがあるということです。「黒い跡が消えない=取れていない」とは限らず、逆に「色が消えた=解決した」とも限りません。見た目と状態は別に見る必要があります。

4. 手を付ける順番

図3 水の出所を確かめてから。落とすのは途中の工程
  1. 水の出所を考える。結露か、雨水か、配管か。季節と場所を記録する(第2回)
  2. どこまで入っているかを見る。表2の手がかりを確認する
  3. 表面で止まっていそうなら、拭き取る。噴霧はしない。換気をしながら行う
  4. 乾かす。拭いたあと、その面を乾かす時間をつくる
  5. 同じ場所に出るかを見る。日付を記録しておく
  6. 繰り返すなら、下地や壁の中を疑う。調査から入る
表4 やらないほうがよいこと
行為 理由
噴霧器で吹きかける 胞子を舞い上げるおそれがある(文部科学省マニュアル)
濡らしたまま放置する 水分が残れば条件も残る
塩素系と酸性の製品を混ぜる 有害なガスが発生する
壁紙の上から塗り重ねる 下の状態が見えなくなる
色が消えたことを解決とみなす 色素の除去と、カビの除去は別
原因を確かめずに張り替える 水の出所が残れば同じことが起きる

5. 張り替えを考えるとき

壁紙の張り替えは、内装の工事です。ここで気をつけたいのは、張り替え自体は水の出所を止める工事ではないという点です。

表5 張り替えの前に確認すること
確認すること 見かた
石膏ボードの状態 押して柔らかくないか、変色していないか
下地の状態 間柱・胴縁の位置に沿った跡がないか
水の出所 結露・雨水・配管のどれか、季節との関係
断熱の状態 同じ位置に繰り返すなら断熱の切れ目も考える
換気の状態 24時間換気が動いているか(0.5回/時)
記録 張り替え前の状態を写真に残す

住宅の品質確保の促進等に関する法律にもとづく10年間の瑕疵担保責任の対象は、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分(屋根・外壁・開口部)です。内装の仕上げそのものは、この対象には含まれていません。ただし、原因が雨水の浸入にある場合は、話が変わってきます。施工者への確認が出発点になります。

仕上げの種類による違い

表6 仕上げの種類と、扱いかたで気をつけること
仕上げ 性質 気をつけること
ビニールクロス 表面が樹脂。水を通しにくい 裏側に水分が回ると乾きにくい
紙クロス 紙 水を含みやすく、拭き取りに向かない
布クロス 繊維 同上
塗装 塗膜の状態による 下地の状態が見えにくい
珪藻土・漆喰など 調湿をうたう製品がある 製品ごとに扱いが違うため施工者に確認
木質パネル 木材 官庁営繕部の資料はカビの条件に「木材表面が濡れること」を挙げている

6. よくある質問

Q. 壁紙のカビは、市販のカビ取り剤で落とせますか。

A. 製品によって使える場所が決められています。壁紙に使えるかどうかは、製品の表示を確認してください。塩素系の製品は色柄物や素材によって使えない場合があります。文部科学省のマニュアルは噴霧器を使わないことを示していますので、吹きかけるタイプの製品を使う場合も、直接吹きかけるのではなく布に含ませるなどの使いかたが考えられます。

Q. 消毒用エタノールを吹きかければ大丈夫ですか。

A. マニュアルの記述は「濃度を70パーセントに保ち(蒸発を防ぎ)長時間接触させる」というものです。吹きかけるだけでは、濃度も接触時間も条件を満たしにくくなります。また、エタノールは引火性がありますので、火気のある場所では使えません。広い面積を扱う場合は、専門業者への相談をおすすめします。

Q. 黒い跡が消えません。まだカビが残っていますか。

A. マニュアルは色素の除去は困難と示しています。カビそのものが除かれていても、色が残ることがあります。逆に、色が薄くなっても状態が変わっていない場合もあります。見た目だけで判断せず、再発するかどうかを時間をかけて見るほうが確実です。

Q. 家具の裏だけにカビが出ます。壁の中の問題ですか。

A. 家具の裏は空気が動きにくい場所です。その条件だけで出ることもありますし、外壁面であれば壁の中の状態が関わることもあります。家具を少し離して空気の通り道をつくることを試し、それでも同じ場所に出るなら、壁の中も含めて考えることになります。

Q. 石膏ボードが柔らかくなっています。どうすればよいですか。

A. 石膏ボードは水を含むと強度が落ちます。柔らかくなっている場合、相当量の水が回っていたことになります。水の出所を確かめないまま張り替えても、同じことが起きます。調査から入ることをおすすめします。調査で何が分かるかは、本連載の第30回で扱います。

7. まとめ

  • 壁紙の裏には、石膏ボードの表面紙という「紙の層」がある
  • 拭いて落ちるかどうかだけでは、表面で止まっているか下地に入っているかは分からない
  • 同じ場所に繰り返す、継ぎ目が浮く、押すと柔らかい――下地まで入っている可能性の手がかり
  • 文部科学省のマニュアルは噴霧器を使わないことを示している。胞子を広げるおそれがある
  • 消毒用エタノールは「濃度70%に保ち、長時間接触させる」ことが条件として書かれている
  • 色素の除去は困難とされる。色が消えたことと、状態が改善したことは別
  • 張り替えは内装の工事。水の出所を止める工事ではない
  • 10年間の瑕疵担保責任の対象は構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分

次回は外壁に出ます。ひび割れとシーリング――雨が壁の中に入る経路の話です。

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連載「建物の構造とカビ ― 床下・壁の中・小屋裏」全31回

全体像(第1〜3回)

床下・基礎(第4〜10回)

壁の中・外壁(第11〜18回)

小屋裏・屋根(第19〜22回)

開口部・水まわり(第23〜27回)

  • 第23回(10/23)窓まわりの結露が壁の中に入るとき|サッシ下部と窓台 (公開予定)
  • 第24回(10/24)玄関・勝手口・土間|床のレベル差と冷える面 (公開予定)
  • 第25回(10/25)浴室・ユニットバスの裏側|点検口から見えるもの (公開予定)
  • 第26回(10/26)キッチン・洗面台の下|配管まわりの小さな漏れ (公開予定)
  • 第27回(10/27)24時間換気と家全体の空気の流れ|負圧・正圧とカビ (公開予定)

判断・点検・改修(第28〜31回)

  • 第28回(10/28)見えない場所のカビを疑うサイン|におい・シミ・床鳴り・建具の動き (公開予定)
  • 第29回(10/29)点検口はどこにあるか|自分で開けてよい場所・開けない場所 (公開予定)
  • 第30回(10/30)調査で何が分かるか|含水率計・サーモグラフィ・ファイバースコープ (公開予定)
  • 第31回(10/31)断熱改修・リフォームでカビを増やさないために (公開予定)

参考資料(一次情報)

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