執筆:MIST工法®カビバスターズ本部(株式会社せら) 本記事の数値は公的機関の公開資料にもとづいています。
第5回と第6回で、床下の湿気には「通して乾かす」と「覆って止める」の2つがあると見てきました。第7回は、その前提そのものが変わる話です。
床下を外として扱うか、室内として扱うか。この選択が、床断熱と基礎断熱の違いです。どちらを選ぶかで、換気口の要否も、点検で見るところも、起きやすいトラブルも変わります。
大事なのは、どちらが優れているかではなく、自分の家がどちらなのかを知ることです。床断熱の家に基礎断熱の対処をしても、その逆でも、うまくいきません。
この記事で分かること
- 床断熱と基礎断熱の違い(断熱ラインがどこにあるか)
- なぜ基礎断熱の家には換気口がないのか
- それぞれで起きやすいトラブル
- 自分の家がどちらかを見分ける方法
- 基礎断熱の家で、新築1〜2年目に湿気が出やすい理由
1. 結論:断熱ラインの位置がすべてを決める
| 床断熱 | 基礎断熱 | |
|---|---|---|
| 断熱材の位置 | 1階の床(床組のあいだ) | 基礎の立ち上がり(内側または外側) |
| 床下の扱い | 外として扱う | 室内として扱う |
| 床下の換気口 | 設ける(施行令22条・フラット35の基準) | 設けない |
| 床下の温度 | 外気に近い。夏は外気より冷たい | 室温に近い |
| 床下の空気 | 外気が出入りする | 室内側とつながる。計画換気に含める設計がある |
| 地面の防湿 | 重要(第6回) | 重要。加えてコンクリートの乾燥にも時間がかかる |
| 点検で見るところ | 換気口のふさがり、地面の状態、断熱材の脱落 | 基礎まわりの結露、コンクリートの乾き、換気の経路 |
- 床断熱は、床下を外にする。だから換気口を設けて、外の空気を通します
- 基礎断熱は、床下を室内にする。だから換気口を設けず、外の空気を入れません
- この2つは前提が逆。基礎断熱の家の基礎に換気口を探しても見つかりませんし、床断熱の家の換気口をふさぐと、床下の湿気の逃げ道がなくなります
用語のたしかめ
建築基準法施行令第22条は、床下換気孔の規定について「床下をコンクリート、たたきその他これらに類する材料で覆う場合においては、この限りでない」としています。基礎断熱の家は床下がコンクリートで覆われているのが一般的で、この規定が適用されない形になります。
2. 床断熱で起きやすいこと
床下は外気に近い状態です。第4回で見たとおり、夏は床下のほうが外気より冷たくなるため、湿った外気が入ると結露します。
| 起きること | 仕組み | 見るところ |
|---|---|---|
| 夏型結露 | 湿った外気が入り、冷たい面で水滴になる | 梅雨〜夏に床下が濡れる。基礎の内側や配管の表面 |
| 換気口のふさがり | 物置・植栽・土の堆積・増築で開口がふさがる | 外周を一周して開口を確認する(第5回) |
| 断熱材の脱落・ずれ | 床下の断熱材が落ちる、隙間ができる | 点検口から見える範囲で、床裏の断熱材の状態 |
| 冬の床の冷たさ | 断熱材が切れている部分から熱が逃げる | 特定の部屋の床だけ冷たい |
| 配管の凍結 | 床下が外気に近いため、寒冷地では配管が凍ることがある | 寒冷地では配管の保温を確認する |
| 地面からの水蒸気 | 防湿の措置がなければ、上がり続ける | 点検口から地面を見る(第6回) |
床断熱の家では、換気口と地面の防湿の2つがセットになります。どちらかが欠けると、床下の湿気が抜けなくなります。
3. 基礎断熱で起きやすいこと
基礎断熱では、床下が室内と同じ扱いになります。冬に床が冷たくなりにくい、配管が凍りにくいという利点がある一方で、湿気の抜け道が限られるという面があります。
| 起きること | 仕組み | 見るところ |
|---|---|---|
| コンクリートの初期乾燥 | 打設時の水分が、その後しばらく放出され続ける | 新築1〜2年目の床下の湿度。コンクリートの余剰水を参照 |
| 床下の換気経路がない | 室内として扱うため、床下の空気を動かす設計が必要 | 床下点検口や、床のガラリの有無。24時間換気に床下が含まれているか |
| 配管まわりからの湿気 | 室内側の湿気が床下へ回る | 配管の貫通部、シンク下、浴室まわり |
| 基礎の内側の結露 | 外気に面した基礎の内側が冷え、結露する | 基礎の内側の表面。断熱が内側か外側かで変わる |
| シロアリの経路 | 基礎の外側に断熱材を張ると、蟻道が見つけにくくなる場合がある | 基礎の外周。第10回で扱う |
| 地面の防湿 | 床下が室内なので、地面からの水蒸気は室内の湿気になる | 底盤のひび割れ、配管の貫通部 |
基礎断熱の家では、床下も「部屋の一部」として見る
- 床下の湿度が高ければ、それは室内の湿度が高いのと同じ意味を持ちます
- 床下点検口を開けたときに、こもったにおいがしないかを確かめてください
- 温湿度計を床下に置いて、室内と比べると状態が見えやすくなります
- 文部科学省のカビ対策マニュアルは、相対湿度を温度変化にかかわらず常に60%以下に保つことを案内しています
4. 自分の家がどちらかを見分ける
| 見るところ | 床断熱の可能性 | 基礎断熱の可能性 |
|---|---|---|
| 基礎の外周に換気口があるか | ある | ない |
| 土台と基礎のあいだに隙間があるか | ある(ねこ土台方式) | ない |
| 基礎の外側に板状の材が張られているか | 張られていない | 張られている(基礎外断熱の場合) |
| 点検口から床裏を見て、断熱材があるか | 床裏に断熱材が見える | 床裏に断熱材がない |
| 点検口から基礎の内側を見て、断熱材があるか | 基礎の内側に断熱材がない | 基礎の内側に断熱材が見える(基礎内断熱の場合) |
確実なのは、図面で確認するか、建てた会社に尋ねることです。国土交通省の資料によれば、日本住宅性能表示基準は10分野33項目で構成され、そのなかに温熱環境・エネルギー消費量に関する項目があります。住宅性能評価書があれば、断熱の仕様が記載されています。
中古住宅を買った場合
重要事項説明書、確認申請の副本、住宅性能評価書、竣工図などに記載があることがあります。仲介した不動産会社か、前の所有者から引き継いだ書類を確認してください。書類がない場合は、点検口から見える範囲での判断と、必要なら調査になります。
5. 断熱改修をするときの注意
第31回でくわしく扱いますが、床断熱と基礎断熱が関わる場面なので、ここで触れておきます。
| やろうとしていること | 注意点 |
|---|---|
| 床下に断熱材を追加する | 床断熱の考え方。床下は外のままなので、換気口をふさがない |
| 基礎の内側に断熱材を張る | 基礎断熱への変更。床下の換気をどう扱うかの設計が変わる |
| 換気口をふさいで基礎断熱にする | 床下の空気を動かす計画とセットでなければ、湿気がこもる |
| 床下に防湿フィルムを敷く | 床断熱・基礎断熱どちらでも有効。端部の処理が要点(第6回) |
| 床を張り替える | 床裏の断熱材と防湿層の位置を、施工会社と確認する |
国土技術政策総合研究所の「省エネと結露」は、気密・換気・通気のいずれかが欠けても耐久性に影響するとしています。断熱を足すことだけを考えると、空気の流れが変わることを見落としがちです。断熱を変えるときは、換気もセットで考える必要があります。
6. よくある質問
Q. 基礎断熱の家で、床下に換気扇をつけてもよいですか。
A. 基礎断熱は床下を室内として扱う設計です。そこへ外気を送り込むと、設計の前提が変わります。とくに梅雨から夏は外気の湿度が高く、気象庁の東京の平年値では6月75%、7月76%です。床下の空気を動かしたい場合は、室内側の空気を循環させる方法を含めて、設計した会社に相談してください。
Q. 床断熱の家で、床下を暖かくしたいのですが。
A. 床下を暖めるということは、床下を室内側に近づけるということです。換気口が開いたままでは外へ逃げますし、ふさぐと湿気の逃げ道がなくなります。どちらにしても、断熱・気密・換気をまとめて設計し直す話になります。部分的な対処では、かえって湿気の問題を招くことがあります。
Q. 新築2年目ですが、床下が湿っぽいです。
A. コンクリートは打設時に含んでいた水分を、その後しばらく放出し続けます。基礎断熱の家ではとくに、その水分が床下にとどまりやすくなります。ただし、配管の漏れや雨水の流入という別の原因も考えられます。第2回で扱った「いつ濡れるか」で切り分けてください。季節に関係なく続く、決まった場所だけ濡れるという場合は、配管を疑います。
Q. 床下エアコンという方式を聞きました。
A. 床下にエアコンを設置して、床下から室内を暖める方式が採られることがあります。これは基礎断熱を前提とした設計です。床下が室内側であることが前提なので、床断熱の家にそのまま持ち込めるものではありません。採用を検討する場合は、断熱・気密・換気の全体設計とあわせて、設計者に相談してください。
7. まとめ
- 床断熱は床下を外として扱い、換気口を設ける。基礎断熱は床下を室内として扱い、換気口を設けない
- 施行令22条は、床下をコンクリート等で覆う場合には換気孔の規定を適用しないとしている
- 床断熱で起きやすいのは、夏型結露・換気口のふさがり・断熱材の脱落
- 基礎断熱で起きやすいのは、コンクリートの初期乾燥・換気経路の不足・配管まわりからの湿気
- 見分けるには、基礎の外周の開口と、点検口から見える断熱材の位置を確かめる
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連載「建物の構造とカビ ― 床下・壁の中・小屋裏」全31回
全体像(第1〜3回)
- 第1回(10/1)家のカビは見えている場所だけではない|床下・壁の中・小屋裏で起きていること
- 第2回(10/2)建物に水が来る4つの出所|雨・地面・室内・配管
- 第3回(10/3)家の断面で見るカビ|基礎から屋根まで、湿気が通る道
床下・基礎(第4〜10回)
- 第4回(10/4)床下のカビはなぜ起きるのか|地面からの水蒸気と床下の温度
- 第5回(10/5)床下換気の基準|施行令22条の換気孔と、ベタ基礎の考え方
- 第6回(10/6)防湿コンクリート・防湿フィルム|「地面を覆う」とは何をしていることか
- 第7回(10/7)床断熱と基礎断熱、カビ目線でどう違うか(この記事)
- 第8回(10/8)床下の点検で何を見るか|におい・白い粉・土台の色・水の跡
- 第9回(10/9)床下調湿材・床下換気扇は効くのか|公的資料で確認できること
- 第10回(10/10)シロアリとカビ|同じ水分条件で起きる2つの被害
壁の中・外壁(第11〜18回)
- 第11回(10/11)壁の中で何が起きているのか|内部結露という現象
- 第12回(10/12)通気層の役割|壁の中の湿気を外へ出す仕組み
- 第13回(10/13)防湿層はなぜ室内側にあるのか
- 第14回(10/14)冬型結露と夏型結露|壁の中で逆向きに起きる
- 第15回(10/15)断熱材の種類とカビ|繊維系・発泡系で水分の振る舞いが違う
- 第16回(10/16)石膏ボードと壁紙|下地までカビが入るとき
- 第17回(10/17)外壁のひび割れ・シーリング|雨が壁の中に入る経路
- 第18回(10/18)サイディングとモルタル|外壁材で変わる水の逃げ方
小屋裏・屋根(第19〜22回)
- 第19回(10/19)小屋裏のカビ|なぜ夏と冬の両方で起きるのか
- 第20回(10/20)小屋裏換気の基準|方式で変わる換気孔の面積
- 第21回(10/21)屋根の雨漏りとカビ|「滴る」前に起きていること
- 第22回(10/22)天井裏の配管・ダクト|結露する場所が決まっている理由
開口部・水まわり(第23〜27回)
- 第23回(10/23)窓まわりの結露が壁の中に入るとき|サッシ下部と窓台 (公開予定)
- 第24回(10/24)玄関・勝手口・土間|床のレベル差と冷える面 (公開予定)
- 第25回(10/25)浴室・ユニットバスの裏側|点検口から見えるもの (公開予定)
- 第26回(10/26)キッチン・洗面台の下|配管まわりの小さな漏れ (公開予定)
- 第27回(10/27)24時間換気と家全体の空気の流れ|負圧・正圧とカビ (公開予定)
点検と改修(第28〜31回)
- 第28回(10/28)見えない場所のカビを疑うサイン|におい・シミ・床鳴り・建具の動き (公開予定)
- 第29回(10/29)点検口はどこにあるか|自分で開けてよい場所・開けない場所 (公開予定)
- 第30回(10/30)調査で何が分かるか|含水率計・サーモグラフィ・ファイバースコープ (公開予定)
- 第31回(10/31)断熱改修・リフォームでカビを増やさないために (公開予定)
参考資料(一次情報)
- 国土技術政策総合研究所「木造住宅外皮の換気・通気計画ガイドライン(案)」 小屋裏換気孔の有効面積、外壁通気層15mm以上、床下換気孔300cm²/4m以内
- 国土技術政策総合研究所「省エネと結露」 夏型結露の定義、気密・換気・通気の役割分担、材料の熱伝導率
- 住宅金融支援機構【フラット35】在来木造の耐久性基準 基礎高さ40cm以上、防湿コンクリート6cm以上、防湿フィルム0.1mm以上
- 国土交通省「住宅の品質確保の促進等に関する法律の概要」 10年間の瑕疵担保責任の対象部分、住宅性能表示基準10分野33項目
- 文部科学省「カビ対策マニュアル」基礎編 水分活性Aw0.6以下、相対湿度60%以下、色素の除去は困難
- 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準」 相対湿度40〜70%、温度18〜28℃
- 建築基準法施行令 第22条(居室の床の高さ及び防湿方法) 床下をコンクリート、たたきその他これらに類する材料で覆う場合は適用しない
- 気象庁 東京の月別平年値(1991〜2020年) 6月の平均相対湿度75%、7月76%
